『借り人競走に参加する生徒は入場門付近に集合してください。』
召集をかけるアナウンスが耳に届く。生徒会が待機しているテントから出ると、暑い日差しが肌をジリジリこがす。
「よし!頑張ってくる」
小鳥遊にそう伝えて召集場所である入場門の方へと足を進めた。
『青組が優勝したらデートして!』
美鈴のお願い事を思い出す。
顔を赤くして、真っ直ぐに俺を見つめながら言った言葉。大胆に見えて、それでいて恥ずかしそうに唇は震えていた。
それを思い出して顔が熱くなる自分に呆れる。
「借り人競走に出場する3年生はここです!」
体育祭実行委員の誘導に合わせて生徒が慌ただしく動き回る入場門前。
借り物競走ならぬ借り人競走はお題に書かれた人物を探して一緒にゴールするもの。この学校の名物と言っても過言ではない。
(運良くスムーズに行くといいな。)
高校最後の体育祭。後悔はしたくないし、それなりに頑張ろう。
なんて考えていると…。
「わっ…大輝先輩…」
「?」
唐突に名前を呼ばれて前を向くと、美鈴と仲の良い同級生の男と目が合った。
確か『智樹』。
なんとなく気まずい。
「先輩も出るんですね。何走目ですか?」
「6だけど」
「っ……俺もです。奇遇ですね。」
ニコッという笑顔を浮かべる相手に、ほんの少しだけ気を緩めた。そんな俺の横を通りながら、隙を突くように…。
「どんなお題引いても美鈴連れて行こうと思います。なので振った先輩は邪魔しないでくださいね。」
すれ違う瞬間、近距離で放たれた言葉に心臓がドクリと鈍い音をあげた。
「っ…お題に合わなきゃゴールしても…」
「急いでくださーい!あと1分で入場です!」
返しの言葉は遮られ、声が届かない場所まで美鈴の友達は行ってしまう。
不完全燃焼のような、よくわからないモヤモヤとした気持ちが胸中で渦を巻いた。