体育祭当日。
気分を高揚させる銃声が轟く大地を蹴り、私は一生懸命奮闘していた。
種目は玉入れ。
あまり意味がないかもしれないけれど、両足で無駄に高くジャンプして青い玉を投げる。
ひとつ入るだけで謎の達成感を覚えながら、またひとつカゴの中を目掛けて振りかぶった。
(なかなか入らない〜…)
私の所属する青組が優勝したら大ちゃんと休日デート。
そればかりが頭に浮かんで、競技に集中できないポンコツな私…。
入れ入れと願いながら投げてようやく一個入った時…。
終了の合図である笛の音が鳴った。
『1!2!3!…』
放送部の高い声で進むカウント。他の白組、黄組は50前半で玉がなくなり、青組と赤組の競り合いが始まる。
『56!57!』
そして60手前。
『59〜!』
悲しいことに、青玉の数は尽きてしまった。
上手くいかないのが人生…。
それもまた一興…。
大人びた考え方が脳裏をよぎり、遠ざかる大ちゃんとのデートに私は頭を抱えた。
『玉入れ、1位赤組!』
生徒会のいるテントの方を見ると、嬉しそうにしている大ちゃんが目に映る。
体育祭用の赤組Tシャツが眩しい。
チラリと見える腕は程よく筋肉がついていて、盗み見る背徳感がクセになりそうだった。
あー。なんて私って変態くさい。
玉入れで負けたことが一瞬にして消えるくらい、変態な私の脳内は大ちゃん一色だ。
タイムテーブルは着々と進んでいき、大ちゃんが出場すると言っていた棒倒しが始まった。
勢いあふれる歓声。立ち込める砂煙。
そして私は…。
「大ちゃんいないんだけど…!!」
好きな人を見つけられず…。
「美鈴って本当に先輩命って感じ。」
葵ちゃんは呆れつつも、私を見てクスクスと笑っていた。
あまりにも白熱した戦場に、怪我人が出ないかヒヤヒヤする。
「智樹のことも応援しなよー? 同じ組なんだから」
「もちろん!応援してるよ!」
そんな会話をしているうちに棒倒しは終わる。
「あー。負けた。うちのクラス、ヒョロっこいメンツしかいなかったしなぁ〜」
辛口コメントを並べる同じクラスの女子たち。
「えー!でもさ、真島くんは運動神経いいよね!この間の体育で走ってるの見て格好良かったもん!」
突然耳に入ったその言葉に、びっくりした。
(……智樹って、もしかしてモテる?)
隣にいる葵ちゃんと目を合わせると、2人して『意外』と顔に書いてあるような表情をしていて…。
「智樹、割と人気高いの?」
「そういえば、この間、他クラスの子から告られてた」
「え!付き合ったのかな?!」
「好きな子いるから今もフリーなんじゃない?」
「あ、そうだった。」
でも好きな子からの告白だったら付き合うよね。
「告白されるって凄いなぁ。」
急に智樹が大人びて見えた。
告白されるとか異次元の話すぎて、私には一生無縁なものだな。
なんて考えていると…。
「美鈴の場合、大輝先輩に向けての好意が周囲にダダ漏れだからね〜。大輝先輩ってしっかりしてるし、男子からもモテる兄貴って感じじゃん? そんな凄い人の存在を知ったうえで美鈴にアタックする男子ってかなりのメンタルがないと無理だと思う。」
「えっと…なんの話?」
唐突な葵ちゃんの言葉に眉をヒクつかせた。
私の好意って、そんなに漏れるほどのものなのだろうか…。
そう思うと急に恥ずかしくて、外を出歩けないような気分に陥る。
「まあ、つまりは…。」
「?」
「美鈴には幸せになって欲しいから。………美鈴のことが好きって言ってくれる人がいたら、精一杯向き合ってね」
「まず、そんな人が現れてくれる未来が想像つかないけど…」
苦笑を見せて、柔らかく微笑む葵ちゃんの顔を覗き込む。正真正銘、彼女は私のことを思ってくれている。
だけど…。
まるで『1人のことを想い続ける必要ない』って言われてるみたいで。
「………」
悲しかった。