あっという間に体育祭前日の夜を迎えた。

晩御飯後、私は片付けを手伝うという理由で大ちゃんとキッチンに2人きりでいる。


「美鈴は何の競技に出るんだ?」


皿洗いをしながら大ちゃんが私に問う。気まずくならないように会話を展開してくれていることに感謝しつつ、こざかしい私は口説くタイミングを見計らっていた。


「学年種目のリレーと玉入れと…あとは綱引き! 大ちゃんは?」

「棒倒しとリレー、借り人競走。」

「リレーって3年生なのに? あっ!もしかして選抜リレー!?」

「そんな大したものじゃないよ。押し付けられただけだし」


この『押し付けられた』という言葉は、生徒会長になった時も言っていた気がする。


「誰もやりたくないって言うものを引き受けたり、頼まれたら断らないで最後まで責任持って貫いたり……………そういうところ、私…好きだよ。」


ポロッと声になって溢れた気持ち。ハッとなって横にいる大ちゃんの方を向いた。


「……ストレートだよな。お前って…」


そう言う隣にいる幼馴染は…。


「…………顔、赤い…」

「そりゃぁ…好きって言われたら緊張するし、なんか…」

「私のこと、少しは意識してくれてるの?」


グッと距離を詰めて、顔を覗き込む。

もっと近くで見たかった。

普段しっかりしてて頼りがいのある年上の幼馴染の、私相手に余裕がない表情。


「………さぁな。」

「うわ!流した!」


私の言葉を無視して、黙々と大ちゃんは皿洗いを進めていく。布巾で拭くのが私の使命なのだが…。

少しだけ続いた沈黙に甘酸っぱさを感じる。

なんとなく恥ずかしくて、時がゆっくりと流れている感覚に陥った最中。


「…賭け事したい。」

「…………どんな?」


静けさを打ち破るのは、私の提案だった。


「青組が優勝したらデートして!」


特に何か努力をしているわけでもない。
自分の気持ちを押し付けるだけのアプローチ。


「……じゃあ、赤組が優勝したら何してくれる?」

「………大ちゃんのお願いなんでも聞く。」


振り向いて欲しいなら、それ相応のことをしなきゃ。
特別に『これ!』って言える才能や個性はないし、自慢できる長所も思いつかない。


そんな私だけど…。


「大ちゃんに好きになって欲しいから……努力をさせて欲しい」


水道の音が大きく聴こえる静かな部屋で、私は大ちゃんと視線を交わす。


「いいよ。」


その一言がすごく嬉しくて。

無意識に私は、幼い子供がじゃれつくように大ちゃんのことを抱きしめていた。