季節は5月中旬。
高校生活において、間違いなく青春の象徴として挙げられる行事『体育祭』が間近に迫ってきている今日この頃…。
「私は青組…。大ちゃんは赤組…。」
「別に組が別でも問題ないだろ?」
頭抱えている私を見て、クスクスと笑う智樹。
「だって…! 応援席一緒になれたらずっと拝めるし! 放課後の組別応援練習も一緒なんだよ!?」
「生徒会は当日までやることあるみたいだし、同じ組になれてもあまり会えないんじゃね?」
「………恋する乙女は1秒でも長く会える可能性を逃しただけで落ち込むんですー…。」
「だぁれが乙女だ。」
家でも会えるし、片想いするにはもってこいの状況下で過ごしているけれど…。
少しでも長く一緒にいたいから…。
「……欲張りだよね。」
乾いた笑いを浮かべて、智樹の方を向いた。
「………それだけ真剣に想われてる大輝先輩って幸せ者だよな。羨ましい。」
「…………ん?」
聞き間違いだろうか。智樹の顔を見ると、頬を少し赤くて窓の外を眺めている。
もしかして…智樹…。
「好きな子いるの!? 私、応援するよ!?」
「っ…ばか、声でかい!」
ギロリと睨みつけられ、慌てて私は両手で口を塞ぐ。それから数秒後、誠心誠意込めて謝ると智樹は笑いながらもう一度窓の外に視線を移した。
「好きな子って、どんな子?」
「好きな人がいるっていうのは確定なのな。」
「それはそう!高校生だし」
「高校生ならみんな恋すると思ったら大間違いだぞ?お前」
「もうっ…その話はいいから教えてよ〜」
「………」
好奇心がくすぐられる。子供みたいに駄々こねるような聞き方に、智樹は呆れているみたいだった。
「ヒント!」
しつこく私が問い詰めたからか、面倒くさそうな顔をして智樹は椅子に深く腰掛ける。
「……一途で頑張り屋な子。」
「ひゃー!」
やばい、変なことが出た。
智樹と恋バナをする日が来るだなんて。
「良いよね。一途な人!頑張ってる人ってのも輝いて見えるし、好きになる気持ちわかるっ」
「いやいや、何目線だよ…。」
そうかそうか。
なんだか智樹と高校生になってやっと仲良くなれたような気がして嬉しくなる。本人は面倒くさそうにしているけど、私の心中は忙しなかった。
「応援してる!」
恩返しのつもり。私がフラれた日に優しく寄り添ってくれた恩返し。
「ん。ありがと。」
お礼を胸に留めて、私は授業前にお手洗いを済ますべく教室を後にした。
「好きな子に応援されてどうすんのさ。」
「黙って聞いてる葵って趣味悪いよな。」
「もどかしい!『先輩じゃなくて俺を選んで』って直球で言えば良いのに〜」
「………応援してくれるの?」
「勘違いしないで。美鈴が幸せになれるなら誰でも良いってスタンスなの〜」
「…へいへい」