望月さんと別れたあと、中庭から特別棟に入る手前で…。
「脱げよ。ブレザー。俺の貸してやるし。」
「いや、悪いし良いよ。智樹、寒がりじゃん。」
「お前よりは鍛えてるし、丈夫だっつーの。」
さっきまで笑ってたクセに。
皮肉めいた言葉が喉奥まで迫り上げてきたが、何も言わずに私はビショビショになったブレザーを脱いだ。
日に当たっていたら暖かい。
でも、日陰に入ると急に寒くなる。
日向と日陰の気温差に驚いていると、目の前で智樹は自身のブレザーを差し出してきた。
「ほら。遠慮すんな。」
「……ありがとう。」
お礼を伝えて受け取ろうとした。
その時だ。
布が擦れる音が聞こえると同時に、上半身がじんわり温かくなる。
「……ばか。風邪ひくぞ。」
心臓が大きく脈を打つ。喉奥がキュッと締まって甘い気持ちが込み上げた。
「大ちゃん…!」
「着てろよ。俺のブレザーだし、美鈴にはデカいけど…。また風邪ひいて辛い思いするの嫌だろ?」
気づけば大ちゃんのブレザーが羽織らされていた。微かに、ふんわりと大ちゃんの匂いがする。
「……先輩のより、近くにいるし…俺のブレザーの方が良くないか?」
呑気に幸せに浸っていると、智樹が首を傾げてもう一度ブレザーを差し出してくれた。
確かに智樹の言う通りだと思う。
これから2コマ連続で同じ授業を受けるから、ブレザーを借りるとしたら智樹から借りるのが理にかなっている。
でも…。
「大ちゃん、走って来てくれたの…?」
「生徒会室の窓から見かけて…その……」
ただ心配で駆けつけてくれたんだろうなぁ。
生徒会室のある4階から走って助けに来てくれた理由を探している大ちゃん。
本当に愛おしい。
「ありがとう。大ちゃんのブレザー着て午後からも頑張るね。」
私が、この人を選ばないわけがない。
「……授業、遅刻しちゃうといけないし行って行って! 大ちゃんありがとう!」
私がお礼を伝えた瞬間、授業開始のチャイムが全校中に響き渡る。
遅刻確定。
智樹も私も大ちゃんも。
自己中心的なのはわかっている。
でも…。
「すっごい嬉しそうな顔。」
「へへ〜…♡」
ずっと口角が上がりっぱなしだった。