「ごめんなさい!」
「平気だよ!ブレザー脱げば問題ないし!」
冷たい。寒がりな私にはちょっとしんどい。
5月とはいえ、冷水を頭から被ってしまった。かすめる風は一瞬で身体の体温を奪っていき、正直、ブレザー脱いで乾かしている間に風邪をひいてしまいそうだ。
「美鈴って運ないよな〜」
洗濯授業で次の時間は2時間連続で書道である。同じ書道選択の智樹は私の不幸をケタケタと笑っていた。
なんて酷いやつ…。
(葵ちゃんにタオル借りようかなぁ…。いや、迷惑か…)
部活用タオルを常に余分に持ってきている葵ちゃん。そんな用意周到な親友の選択科目は音楽だ。
………だからこの場にはいない。
今から音楽室の方に行って『タオル貸して!』なんてお願いするのは迷惑極まりないな。
「本当にごめん!よかったらこれ使って…!」
私に水をかけたことを顔面蒼白で謝る他クラスの子は、可愛らしいハンカチを手渡してくれた。
「ありがとう…!えっと…何組?」
「5組だけど…」
「ハンカチ、今度返しに行くね。」
「…ありがとう。逆に手間かけちゃってごめんね。」
「そんなことない!助かる!」
誠心誠意込めて謝ってくれる。それだけで十分だ。
そう思っていると、タイミングよく授業開始5分前のチャイムが鳴り響く。
「あ…どうしよう。授業始まっちゃう…。」
名札を見ると、望月(もちづき)という文字が目に入った。だから私は『もう大丈夫』という態度を取るべく…。
「またね、望月さん。ハンカチありがとう!」
ニッコリ笑ってそう言った。
たまたま起こった軽い事故のせいで授業に行けない、なんてことは嫌だから。
自分なりの気遣いとして別れを告げた。