「………そんなに自分のこと凄いとか思ったことないんだけどな」


5月に入り、ゴールデンウィークが明けた。
陽気な陽射しが心地いい昼休み、俺は無意識に副会長の小鳥遊にボヤいていた。


「なに? また惚気?」

「のろ…け……とかではなく…」

「じゃあどうした?」


書類をホッチキスで纏める作業。こういう作業が好きでもなさそうなのに、小鳥遊はコツコツと進めていく。


「小鳥遊はなんで副会長になったんだ?」


素朴な疑問を投げかけた。


「んー、入試に有利だから。」

「そうか」


今更『なんで』とか『どうして』なんて、考えることは間違っているのかもしれない。

本当、今更。

なんて思っていた時…。


「素直に自分のことを認めてあげれば、楽に生きられるよ。」

「……え?」

「『幼馴染に好かれる理由探し』。違うか?」


小鳥遊はいつも、あまり人に執着がないようで実際のところ観察している。しかも的確だし。

隠し事ができない相手というか、隠し事をつい話してしまうような相手というか。


「あってる。なんで俺なんだろう、とか、ふとした時に考えてる。」

「意外にもお前ってネガティブだよな。」

「んー。いや、自分的には普通だと思うんだけど。」


大きく伸びをして椅子から立ち上がる。中庭の方の窓へと進み、ぼんやり外を眺めた。


「そういえば、中庭のホース、買い換えないといけないって先生言ってたよな?」

「ああ。途中で切れてて勢いよく水が飛び散るからガムテープ貼って補強してるみたいだけど」


ボロボロのホースを持ってバケツに水を注ごうとしている女子生徒を見かける。なんとなく嫌な予感がして、ジッと直視していると…。


《バシャッ!》


案の定、補強したガムテープが外れて水飛沫が宙を舞う。そして多くの水量が横を通った生徒にかかった。


「うわ…」

「ん?どうした?」


俺の反応を見て、不思議に思った小鳥遊は窓まで来て一言。


「……あれ?水かかったのってさ…」


俺はあまり目が良くない。離れた位置からだと人の顔が認識しづらいくらい視力は低い。

だから、次に続く小鳥遊の言葉を聞いて俺は頭を抱えることになる。


「……お前の幼馴染の子だよな…? 最近、暖かいけど…冷水かかれば寒いだろうなぁ…」


居ても立っても居られなかった。気づけば、足は動いて生徒会室を出ようとドアに手をかけていて…。


「ごめん!小鳥遊!ちょっと行ってくる!」


ニヤニヤしている小鳥遊。あとで何か言われることは間違いないけれど、慌てて廊下へと飛び出した。

『美鈴は昔から風邪をひきやすいから。』

誰が聞くわけでもない理由を並べて、俺は走った。