「……美鈴、起きろ。学校遅刻するぞ?」
「むりぃ…。寒いから起きたくないぃ…。」
布団から出ている顔が寒い。足も寒い。手も寒い。
けど、学校に行かないと…。
受験前の大事な授業。わかってる。わかってるんだけど……。
「……抱っこ…」
力が入らない。
「……美鈴、お前…中3にもなって…。」
でも、なんだかんだ言って大ちゃんは…。
「ほら。」
グイッと私の手を引いて起こしてくれる。
そのまま流れに身を任せるように大ちゃんのことを抱きしめると、ふんわりとホッとする香りが鼻腔をかすめた。
(うぅ…好き…)
寒いのとか、寝起きが悪いのとか、全部事実だけど…。
居心地の良い大ちゃんの腕の中に入れる朝は私にとって、至福のひととき。
「美鈴」
「なに?」
「起きて早々、悪いんだけど…」
あ、なんかやばい感じがする。
私の危険察知能力は長けていて、こういう時の大ちゃんは…。
「カーテンも、ベランダの鍵も閉め忘れるとか不用心すぎだぞ…。向かえの俺の部屋から丸見えだ。」
ほらね。怖い顔して説教タイム。
「いつでも大ちゃんがベランダから私の部屋に入れるように気遣っての行動なんだけどなぁー。」
「いやいや…小学生じゃあるまいし。」
向かい合いながら大ちゃんの膝に座る。抱きしめる腕を緩めずに、彼の首筋に頬を寄せた。
「大ちゃん、あったかい。好き。」
「湯たんぽ代わりか?俺は」
クスクスと笑いながら、大ちゃんは私の背中を赤子をあやすように撫でる。
この包容力といい、耳元で囁く柔らかい声音といい…。
本気で、男の人として大ちゃんが好き。
なのに…。
「そろそろ兄離れしろよ? あと2ヶ月で高校生なんだから」
「………」
妹扱いから抜け出せない今日この頃。
大ちゃんの首に回した腕に力を込めた。
「っ…美鈴、苦しい…」
「大ちゃん嫌い…!」
「はっ? おい…!」
隣の家に住む大ちゃんは幼馴染で、2つ年上で、私のことを妹だと思っている鈍感な男の人だ。