「なぁ…小鳥遊(たかなし)」

「ん?」

「………ずっと大切に想っていた子にキスされたら…どうする?」

「んだよ。惚気か。」


生徒会副会長の小鳥遊は価値観が合う親友だ。ルックスも良くて、よく女子から告白されているのを目撃する。

経験豊富なこと間違いなし。

だからこのモヤモヤを晴らすべく、小鳥遊に問いかけた。


「大切に想っていた子からキスされる、なぁ。そりゃぁ両想いだろ。」

「いや、俺は恋愛感情はない。」

「……あー、例の幼馴染?」

「…………俺にとっては幼馴染だけど…その…家族で、妹というよりかは娘みたいな感じで…」

「………吉澤って完璧だけど、心は老けてんのな。」


否定はできない。
早く大人になりたかった。美鈴と春田を守れるような人間になって、2人の笑顔をおじさんの分まで守り抜きたい。そう決めた頃から俺は生き急いでいる。


「……高校生ってそういうのが気になる時期だし。そもそも美鈴は俺が好きなんじゃなくて、そういう行為に興味があるだけで…」

「ふっ…!心が老けてる割に自己肯定感低めだな…っ…お前。」


クスクス笑いながら、小鳥遊は呑気に校庭を眺めている。


「いやぁ、もう葉桜だな。」

「………」


本当に呑気。相談する相手を間違えたと痛感していると、小鳥遊は机の上に置いてあった棒付きの飴の包み紙を取っ払い、口へと運んだところで話し始める。


「相手は本気だと思うよ。」

「……何が?」

「本気で吉澤のことが好きなんだろうな。」

「…………」


まさか。
俺は、美鈴の兄貴みたいな立ち位置で。
守っていかないといけない存在で。


「………好かれてたら迷惑。なんて言うなよ?」

「……迷惑なんて思ってない。」

「顔に書いてあるけどな。」


恋だの愛だの、そんなに大切なことか?

幼馴染として、妹として、一家族として。

それだけで良くないか?



『……私、大ちゃんの妹じゃない。大ちゃんが思うほど、もう子供じゃないよ。』



確かにそうだ。
血が繋がっていないから妹じゃない。
しっかり自分の意思表示ができる、心は立派な大人だ。

理解してる。わかってる。


「で、キスした後は?大人の階段登ったか?」

「別に。特に何も。」


キス。その2文字を聞くだけで、唇の感触を思い出す。

柔らかくて、気持ちが良かった。

風呂上がりのシャンプーの匂いがして、肌は火照っていて。


素直に、可愛いなんて思った。


キスが拒めなかったのは、拒んだら泣かせてしまうかもしれないという可能性が脳裏によぎったからだ。

受け入れたからといって、美鈴のためでも何でもないのに。


「俺、最低。」

「卑下する前に筋通せば良いだろ。振るなら振る。付き合うなら付き合う。曖昧な関係なんて、誰も得しないぞ。」

「……ああ。そうだな。」


飴を舐めつつもそれとなく小鳥遊は相談に乗ってくれるから良いやつだ。


「………あれ、小鳥遊。それって俺が先生から貰った飴じゃ…」

「ご名答!パチパチ〜」


前言撤回。
割と楽しみにしてたアセロラ味の飴を盗られた。


「………いい性格してるよ。お前…」

「褒め言葉として受け取っておこっと〜」


筋を通す。
間違いなく、この状況下で一番大切なことだ。

相談料として飴は献上しよう。

軽く息を吐いて、俺は生徒会の仕事へと没頭した。