次の日。
彼女の車は高速道路にのって空港に向っている。後部座席に座った彼女はエアコンで涼んでいる。

彼女はあまり日本人男性と結婚した外国人女性と関わりたがらない、そのような上司とも関わりたくない。日本人を夫にした女性は、自分が日本の諸文化やあらゆる人間関係についてとても詳しい「日本通」だと勘違いしている。単に、日本人男性の一人や二人を知っているだけに過ぎないのに、それらを元に理解した気になって日本の女性達を相手にする彼女達が嫌いなのだ。実際にある友人もそうで、彼女とは縁を切った。

しかし、メアリー・トーマスは違っていた。今まで出会った人の中でトーマスは一番聞き手上手、日本の諸文化やあらゆる人間関係などに詳しいと勘違いしていなく、良好な印象を彼女に与えたのだ。彼女は外国人女性に対して今まで偏見を持っていたと、改めて気づいた。

愛車を空港駐車場に停めたのち、彼女は絢香と一緒に到着ロビーへ向かった。トーマスと顔を合わせるのは今回で五回目になるな、と思っていると紺色のスーツに白いシャツ、カジュアルな姿のメアリー・トーマスが視界に入った。もし、トーマスは男性ならば典型的な紳士かもしれない、と彼女は思った…

彼女は流暢な英語で「トーマスさん、こんにちは、お久しぶりです」

「古野さん、こんにちは、お久しぶりですわ」トーマスが真っ白な歯を見せて笑った。

「トーマスさんに会えて嬉しいですよ」

「私も、会えて嬉しいですわ、古野さんはすぐに私を見つけましたね」

「えぇ。優秀な人は群衆の外に立つべきよ」と彼女は冗談した。

今回トーマスは北アジア全域の巡察と泰和総研との契約を行うのである。まずは、シンガポールからソウル、ソウルから台北(たいべい)、香港を経て、北京から東京で三泊、そして再び香港に戻って、香港からシンガポールに戻るのだ。

トーマスが最も簡単な日本語を絢香に挨拶すると、絢香も会釈して、トーマスに挨拶をした。そして、トーマスのキャリケースを受け取ると、そのまま車に乗り込んだ愛はトーマスに聞いた「会社とホテルどちらへ先に向かいますか?」

「郷に入って郷に従う、古野さんが取り決めるといいわ」

「承知致しました、これからは会社に向かいましょう。明日の契約式の予定ですが、時間短縮の為に移動しながらお話したいと思いますが、よろしいでしょうか?」彼女はトーマスに資料を渡した。トーマスは資料に書かれている建前を熟知している、所々を飛ばし適当に目を通した。

「トーマスさん、明日は私に何をして欲しいでしょうか?」

「ある程度の事。そして……記念写真。それだけです。古野さんならきっと上手く演じれると私は思いますよ」

「明日の契約式はきっと間違いなく、円満に終わるでしょう」

「そうなると嬉しいわ」トーマスは軽く手を口に当てて微笑した。

走行中の車が軽く揺れているが、空港を出発してからは、ずっと青信号で交差点を通過し、順調に高速道路をのった。

「古野さんは今朝の新聞を見ましたか?」

「えぇ、見ましたよ」

「上海にコンサル会社を設立したアイトミ総研、何か匂わない?」

「匂う……?何がですか?」彼女はアイトミ総研の裏事情についてはさっぱり様子が分からないようだ。

「詐欺よ、詐欺」

「アイトミ総研がですか?」

「そうです」トーマスは内部資料をビジネスバッグから取り出した。

「こ……これは……」彼女はアイトミ総研についてまとめた内部資料を見て驚いた。まさか、自分の知らないと所で自分の会社が詐欺に使われていたとは、想像もつかなかった。まるで砂袋のように身体中の臓器が重たく、内心はとっても混乱している。

憎かった親友に対して、さらに憎い気持ちを沸き起こった。はっきりと不吉な予感をした彼女は最大限の落ち着きを見せようとしていた。しかし、隣にいるトーマスは彼女の横顔を見つめていると何かしら冷たいものを感じた。アイトミ総研に何があったのか明らかにしなければならない。

「この資料何故私にくれたですか?」彼女の声と口調は何の変化もなく、依然と穏やかで落ち着のある話し方であったが更にもっと親和的な感じだった。

「古野さんだからこそ、きっと保管できると信じているからです」

「......」

「そう言えばですね、明日の契約式後の昼食会にはSWグループの創業者の葉さんも参加ですよ」トーマスは今までの重い空気を打破した。

「葉さんは私がとても尊敬している方なので、お目にかかれば私は本当に光栄です」

「それはよかったです。契約後のプロジェクトの担当者は葉さんになりますので今後とも是非宜しくお願い申し上げます」

「こちらこそ宜しくお願い致します」