「恋は美味しい珈琲のようなものであり、結婚は珈琲屑だけが残る珈琲カップのようなものである。恋は互いがジレンマにならせるものであり、結婚は互いが恋の逃亡者にならせるものである」これは「真実」なのだろうか、と独身を謳歌している古野愛(ふるのあい)は度々考えた。時々ある面でそれは「真実」だと彼女は思った。
朝から憂鬱な気持ちで出勤したくない彼女は毎朝ランニングに出る。企業の社長をしている、そして庶民生活を好んでいる彼女にとって、朝は貴重な時間なのだ。一日の始まりである朝。ランニングウェアに着替えて家を出る。彼女は今着ているランニングウェアを気に入っている、初恋の人から初めてのプレゼントなのだ。ランニングウェアは汗が染み込んでいる、見た目はあまりも古すぎた。
五年前、学生スポーツ大会で知り合った彼氏の阿野吉(あのよし)は学生寮の近くのスポーツ用品店で買ってきた。その時の二人はいつも休校日を利用してランニングをした。将来は子どもたちに恵まれて、可愛いペット、そして仲良しな大家族。子どもを連れてファミリーランニングをする。幸せはこうゆう事なんだろうなと彼女は思っていた。幸福の具体像だった。ランニングの休憩中に彼女は羽根木公園のベンチに座り、何気なく空を見上げた。
「おはよございます、いい天気ですね」若い女性の声がして、彼女はベンチで座り直した。朝ランニングすると必ず見かける二十代前半の女。以前、ランニングウェアの上着を忘れて、追いかけて届けに来たことがあった。
「おはようございます」彼女は笑顔で応えた。
「もう本格的に夏ですね。ほら、百日紅(ひゃくじつこう)が咲いている」
そう言われると、いつの間にかは梅雨が終わっていた。目の前に綺麗な赤い花が咲いてる。耳は蝉の声が聞こえていた。しかし、彼女は季節の移り目に興味なかった。
「これは百日紅なんですか?」
「知らなかったんですか?」
「えぇ。上質な香水のような匂いがしますね」
彼女の答えに若い女性は愛嬌がある笑いをした。笑うと少し幼く見える小柄な女性。ナチュラルメイクに小さい花柄のワンピース、とても清楚な感じだ。
じゃぁ、と若い女性は歩き出した。
ショートボブの髪にトートバッグ。
きっと大学生なんだろうなと思いながら、肉付きの良いすっきりした足を彼女は見送った。
彼女は満開の花をもう一度見て、今日はいつもと違う朝だなと感じた。ランニングを終わり、帰宅した彼女は玄関のドアを開けると、静かな清潔感のある部屋が目の前に現れた。一人暮らしの彼女はリビングと庭を繋ぐ硝子窓を開け、青空を眺めながら深呼吸した。
朝から作り置きの朝食をレンジで温めながら珈琲が出来上がるのを待っていた。その間に木製のテーブルで首都新聞を読んでいる。麺派の彼女は味噌うどんが大好きである。新聞紙をめぐり、ある記事が彼女の目にとまった。それはライバル会社であるアイトミ総研に関する記事だった。
アイトミ総研は企業経営を様々な側面から支援する会社である、社外向けシステム開発会社でもある。彼女と吉が創立した会社であるのだ。会社名も愛と吉(とみ)と言う意味で付けた。しかし、親友であった人は彼女を嫉妬して、何もかも乗っ取った。
半分の人生を乗っ取った人に対して、彼女は恨んでいなかったが、心血(しんけつ)を注いた会社だけは他人に乗っ取られたことを許せなかった。嫉妬心が酷い人間に経営させるよりも、いっそ自分の手で潰したほうが良いと思い詰めて、彼女は今の泰和総研(たいわそうけん)を創立したのだ。
へぇ、あいつらは上海でコンサル会社を設立したんだ、と読んだ新聞を畳み、食器を持って台所に行った。彼女は溜息をつき、テーブルに置いた一輪挿しの薔薇は枯れていないかを確認した。
彼女は細かい事に無関心のような性格の持ち主だが生活に情熱的な気持ちを持っている。その姿勢はたしか、身なりも常に清潔さを保っている。自分への要求は厳しく、周りの人が掃除の手間を抜こうとするなら、必然「ちゃんとやりなさいよ」の嵐が吹くだろう。そして、やられたらやり返す。それ以上に倍返しな人である。
まだ時間の余裕がある。
彼女はいそいそと庭に向かった。
庭にあった小屋に向かって、朝ごはんだよぉ、と呼びかけながらフードを用意。すると、小屋からモフモフな頭がポンと出てきた。大福と言う名のゴールデンレトリバーだった。
大福は喜んで鳴いた。
小屋は木造の物だけど、大福にとってはその大きさがちょっとした贅沢な豪邸である。大福が朝食をしている時に彼女は小屋の掃除をした。
「お家が綺麗になったよ」
大福はしっぽを振り、非常に喜んでいる。
「家が綺麗になって気持ちいいでしょう」彼女はしゃがんで大福を撫でた。
大福がこれは立派な屋敷だと眺めている。
彼女は室内の壁掛け時計を一瞥した。出勤時間が近づき、あまりゆっくりはしていられない。室内に戻り、爽やかなベーシックの白シャツと細身のパンツに着替えると、印象はがらりと企業を経営するバリバリのキャリアウーマンに一変。
パーマをかけた黒いポニーテール、妖艶な顔立ちに清楚なメイク、誰が見てもすぐに心地よいと感じる雰囲気だ。鏡に映る自分の姿を見つめながら両頬を叩いて、彼女は自分を激励した。
「私は出かけるよ、いい子にしてね」彼女は大福に声をかける。
大福は今日も早く帰って欲しいのような目つきをして、玄関まで彼女を見送った。
マイカーで通勤しようとした彼女は車に乗り、CDを手に取った時、初恋の人とのツーショットの写真がCDのジャケットから落ちた。写真を拾った彼女は初恋の人が既に戻ってこない事を認めたくなかった。けれど、独身を謳歌している。
それでも、彼女は自分の気持ちに嘘をついた。一度人生に対してやる気を失っていたが、次第に気持ちを仕事にぶち撒けて、今の古野愛になったのだ。しかし、彼女は初恋の人を骨の髄まで愛していたからこそ、今も忘れることがなく。複雑な気持ちを心に閉じ込め、今日の朝会が始まる……
朝から憂鬱な気持ちで出勤したくない彼女は毎朝ランニングに出る。企業の社長をしている、そして庶民生活を好んでいる彼女にとって、朝は貴重な時間なのだ。一日の始まりである朝。ランニングウェアに着替えて家を出る。彼女は今着ているランニングウェアを気に入っている、初恋の人から初めてのプレゼントなのだ。ランニングウェアは汗が染み込んでいる、見た目はあまりも古すぎた。
五年前、学生スポーツ大会で知り合った彼氏の阿野吉(あのよし)は学生寮の近くのスポーツ用品店で買ってきた。その時の二人はいつも休校日を利用してランニングをした。将来は子どもたちに恵まれて、可愛いペット、そして仲良しな大家族。子どもを連れてファミリーランニングをする。幸せはこうゆう事なんだろうなと彼女は思っていた。幸福の具体像だった。ランニングの休憩中に彼女は羽根木公園のベンチに座り、何気なく空を見上げた。
「おはよございます、いい天気ですね」若い女性の声がして、彼女はベンチで座り直した。朝ランニングすると必ず見かける二十代前半の女。以前、ランニングウェアの上着を忘れて、追いかけて届けに来たことがあった。
「おはようございます」彼女は笑顔で応えた。
「もう本格的に夏ですね。ほら、百日紅(ひゃくじつこう)が咲いている」
そう言われると、いつの間にかは梅雨が終わっていた。目の前に綺麗な赤い花が咲いてる。耳は蝉の声が聞こえていた。しかし、彼女は季節の移り目に興味なかった。
「これは百日紅なんですか?」
「知らなかったんですか?」
「えぇ。上質な香水のような匂いがしますね」
彼女の答えに若い女性は愛嬌がある笑いをした。笑うと少し幼く見える小柄な女性。ナチュラルメイクに小さい花柄のワンピース、とても清楚な感じだ。
じゃぁ、と若い女性は歩き出した。
ショートボブの髪にトートバッグ。
きっと大学生なんだろうなと思いながら、肉付きの良いすっきりした足を彼女は見送った。
彼女は満開の花をもう一度見て、今日はいつもと違う朝だなと感じた。ランニングを終わり、帰宅した彼女は玄関のドアを開けると、静かな清潔感のある部屋が目の前に現れた。一人暮らしの彼女はリビングと庭を繋ぐ硝子窓を開け、青空を眺めながら深呼吸した。
朝から作り置きの朝食をレンジで温めながら珈琲が出来上がるのを待っていた。その間に木製のテーブルで首都新聞を読んでいる。麺派の彼女は味噌うどんが大好きである。新聞紙をめぐり、ある記事が彼女の目にとまった。それはライバル会社であるアイトミ総研に関する記事だった。
アイトミ総研は企業経営を様々な側面から支援する会社である、社外向けシステム開発会社でもある。彼女と吉が創立した会社であるのだ。会社名も愛と吉(とみ)と言う意味で付けた。しかし、親友であった人は彼女を嫉妬して、何もかも乗っ取った。
半分の人生を乗っ取った人に対して、彼女は恨んでいなかったが、心血(しんけつ)を注いた会社だけは他人に乗っ取られたことを許せなかった。嫉妬心が酷い人間に経営させるよりも、いっそ自分の手で潰したほうが良いと思い詰めて、彼女は今の泰和総研(たいわそうけん)を創立したのだ。
へぇ、あいつらは上海でコンサル会社を設立したんだ、と読んだ新聞を畳み、食器を持って台所に行った。彼女は溜息をつき、テーブルに置いた一輪挿しの薔薇は枯れていないかを確認した。
彼女は細かい事に無関心のような性格の持ち主だが生活に情熱的な気持ちを持っている。その姿勢はたしか、身なりも常に清潔さを保っている。自分への要求は厳しく、周りの人が掃除の手間を抜こうとするなら、必然「ちゃんとやりなさいよ」の嵐が吹くだろう。そして、やられたらやり返す。それ以上に倍返しな人である。
まだ時間の余裕がある。
彼女はいそいそと庭に向かった。
庭にあった小屋に向かって、朝ごはんだよぉ、と呼びかけながらフードを用意。すると、小屋からモフモフな頭がポンと出てきた。大福と言う名のゴールデンレトリバーだった。
大福は喜んで鳴いた。
小屋は木造の物だけど、大福にとってはその大きさがちょっとした贅沢な豪邸である。大福が朝食をしている時に彼女は小屋の掃除をした。
「お家が綺麗になったよ」
大福はしっぽを振り、非常に喜んでいる。
「家が綺麗になって気持ちいいでしょう」彼女はしゃがんで大福を撫でた。
大福がこれは立派な屋敷だと眺めている。
彼女は室内の壁掛け時計を一瞥した。出勤時間が近づき、あまりゆっくりはしていられない。室内に戻り、爽やかなベーシックの白シャツと細身のパンツに着替えると、印象はがらりと企業を経営するバリバリのキャリアウーマンに一変。
パーマをかけた黒いポニーテール、妖艶な顔立ちに清楚なメイク、誰が見てもすぐに心地よいと感じる雰囲気だ。鏡に映る自分の姿を見つめながら両頬を叩いて、彼女は自分を激励した。
「私は出かけるよ、いい子にしてね」彼女は大福に声をかける。
大福は今日も早く帰って欲しいのような目つきをして、玄関まで彼女を見送った。
マイカーで通勤しようとした彼女は車に乗り、CDを手に取った時、初恋の人とのツーショットの写真がCDのジャケットから落ちた。写真を拾った彼女は初恋の人が既に戻ってこない事を認めたくなかった。けれど、独身を謳歌している。
それでも、彼女は自分の気持ちに嘘をついた。一度人生に対してやる気を失っていたが、次第に気持ちを仕事にぶち撒けて、今の古野愛になったのだ。しかし、彼女は初恋の人を骨の髄まで愛していたからこそ、今も忘れることがなく。複雑な気持ちを心に閉じ込め、今日の朝会が始まる……