「多分、魑櫻って族が知ってる」
「アイツらか…なら女は酷い罰を受けてるだろ」
そう言う親父は“魑櫻”のことを知ってるような口ぶりだ。
魑櫻はこの街の不良を仕切ってる族で魑魅魍魎連合の1つだ。
「なんだ」
「親父は昔ヤンチャしてたろ?魑櫻のこと知ってんのか?」
「知ってるも何も26年前頭はってたからな」
「「え!?」」
驚きのあまり、俺と瞳さんの声がシンクロした瞬間だった。
待て待て待て、そんなの聞いた覚えないけど?
初耳なんだけど?
「正一さん、昔暴走族に入ってたの…?」
「まぁ、そうだね」
パクパクと池の鯉みたいな顔で驚きを隠せないでいる瞳さんだけど、俺だってかなり驚いている。
だってエリート建築士で悪いイメージがないこの親父がだぞ?
昔ヤンチャしてたのだって半信半疑だったのに、魑櫻の元総長とかぶっ飛んだ話がくんのかよ。
けど…まぁ、親父の拳を見てみれば昔ヤンチャしてたのは納得できてしまうんだけどな。
「ストーカー女はいいとして沙夜はどうすんだよ」
そうだ、一番気になるのはそこなんだ。
ストーカー女が罰を受けても沙夜が今すぐ戻ってくるわけがねぇ。
「戻ってくるさ」
「は?」
「だから今は関わらないでおく」
「おい親父!何言ってんだよッ」
「俺たちが何をしたって沙夜の心の傷は治らないし、むしろ傷を大きくするかもしれない」
それならいっそ放っておいてあげようって言ってるんだ、親父はそう言って瞳さんの頭をポンポンと撫でた。
俺は部屋に戻って沙夜の心の傷をどうやったら治せるかを考えていたら、部屋の扉がノックされ「入るぞ」と親父が入ってきた
「何だよ」
不機嫌気味に言えば「千也」とやけに真剣な声で俺を呼んで真っ直ぐに俺を見た。
「沙夜のことは諦めろ」
「は?何言___」
「好きなんだろ?」
その言葉に何も言い返せなくなった。
なんで…何で知ってんだよ。
言ってねぇはずなんだけど?
「俺に隠し通せると思ってんのか?」
それは何でもお見通しだと言っているようで。
俺はやっぱ敵わねぇなと思った。
「あぁ、俺は沙夜が好きだよ」
「残念だな。沙夜の心がお前に向くことはないよ」
「何でそう言い切れんだよ」
俺じゃ沙夜を護れねぇ?
ならアイツは…誠人は沙夜を護れるって言うのかよ?年下のアイツに。
「お前はこの世界を知らなすぎる」
「この世界ってのは族のことか?」
「沙夜ちゃんをさらった奴のことさっき知ったが、魑櫻と敵対している族の者だった。それに魑櫻が沙夜の場所をハッキングしなきゃ沙夜は助からなかったそうだ」
それを聞いて俺は息を飲んだ。
それは沙夜が最悪の事態になっていたかもしれないということだ…あの紙に書いてあったように。
「千也」
下に落としていた視線を上げて俺を呼んだ親父を見据える。
「諦めろ」
その言葉は強く深く俺の胸に突き刺さった。
俺には___諦めると言う道しか残されていなかった。
【千也side end】