この後は帰るというだけなのだが、残念イケメンが「2人はデートしてきなよ。俺と沙夜ちゃんは家に帰ってるから」と言ったせいで正一さんとお母さんはこの男の思惑通りデートに___というか「じゃあ一泊してくるわね~」と行ってしまった。
嘘、でしょ…そんなあっさり。
正一さんとお母さんが去った後、そこに冷たく悲しい風が吹いた。
この男と2人きりなんて!
無理、本当無理なんですけど!
残念イケメンと2人になってしまった私は、男の顔を見ることができない。
とんでもなく悪い顔をしてそうな気がするからだ。
よし、このまま振り返らずに帰ろう。そうしよう。
と、踏み出そうとしたとき____
「誰が帰っていいって?」
その言葉と共に腕を引かれて後ろによろけた。
よろけた私の体を大きな体が支えてくれたけど、これは残念イケメンの体なんだった…と肩を落とした。
ていうか帰っちゃダメなの?!
もう食事会終わったじゃん!
もういる必要ないじゃん!
それなのに私を帰そうとしない残念イケメンの考えが分からない。
彼の瞳は私を捉え、私の瞳を捉えて逃がさない。
『何よ残念男』
「あ?それ俺のことか?」
『他に誰がいるってのよ』
「てめぇ…いい度胸じゃねぇか」
『そう。ありがとう』
とりあえず褒め言葉として受け取ると“褒めてねぇよ。バカ女”と私を馬鹿にした残念イケメ…もうイケメンなんて言ってやらない。
この男はッ…いつまでたっても独身のままねきっと。
それにこの男の下の方は使い物にならなくなっちゃえばいいのよ。
なんて少し怖いことも考えたりした。
「千也」
この男は突然何を言い出してんの、自分の名前なんか口にしちゃって。
ん?あぁ、もしかして私にそう呼べって言ってんの?
冗談じゃない。
『福澤』
「千也つってんだろ!」
『ふ・く・ざ・わ・さん!』
「てっめぇ、兄妹になるっつーのに苗字呼びとかふざけんな!」
ふざけてないし!!ふざけてるって言うならそっちでしょ!
私はまじめに言ってるんだよ、誰がアンタの名前なんか呼んでやるかっての。
正一さんが親になるのは嬉しいし、大喜びだし、大歓迎だけどこの残念男が兄になることは嬉しくないし、超絶嫌だし、歓迎さえしたくない。
それほど私は夕方のことを怒ってる。
「ケーキ」
『ケーキ?』
何?食べたいわけ?
年上のくせになんで文にして言えないの?
「駅前のケーキ1ホール」
『……』
「プラス、マカロンとか好きな物全部買ってやる」
『…………家に行ってあげない、こともない』
駅前の人気店の1ホールで心を1/4も許してしまう私は相当甘いというか単純な女なのかもしれない。
約束通り駅前の人気店で苺ケーキを1ホール買って福澤家へと向かった。
さすが建築会社の社長宅と言うべきなんだろう。
大きくてすごい綺麗。
これって何坪あるわけ?と訊きたくなるほど大きい。
『ンッ…!』
あんぐりと口を開けていた口の中にいきなりキャラメルを放り込んできた。