『…ッ』
ここにはお母さんも正一さんのいるというのに、何言っちゃってくれてんのよこの男ッ…。
隣に座るお母さんをチラリと視線を寄こす。
耳には届いておらず、正一さんと楽しく話しているようでホッとした。
本当は知っているかもしれないけど知らなかった場合知られたくないし、正一さんにも知られたくない。
『それに、ちゃんと彼氏いるので』
「遊びだろ?」
バカにしたような笑い。
『そんなんじゃないわよ。もうそういうのは止めたの』
当たり前でしょ、と言おうとしたところを彼が邪魔をした。
「今まで特定の男じゃ満足できなかったくせにな」
グサリと心の奥深いところに突き刺さる、それは悪意ある言葉。
ふざけないで欲しい、でたらめも言わないで。
確かに何回も何回も彼氏を変えてきた、それは変えようもない事実。
だけどここまで愛しく思え、離れたくないと思ったのは誠人が初めて。
私は本気で2度目の恋をした。
『この話はもう止めて。これ以上気分下げないでくれる?』
「ふっ…」
『何が可笑しいの』
「はいはい分かった」
心底ムカつく。
この男はいちいち癇に障る。
「沙夜ちゃん。嫌いというか苦手な食べ物はないかい?」
『っ……はい、ないですよ』
タイミングよく正一さんが私に話し掛けてくれたので私と残念男の会話は終わった。
運ばれてきた料理はどれも美味しすぎて、その美味しさを噛みしめた。
だってもう来れないかもしれないじゃん?
こんな機会滅多にないもの、しっかり噛みしめて見なきゃ。
食べながら正一さんと話をした。
学校…ではなく親友ユカの話や誠人の話を。
___やっぱり正一さんは優しくてこんな人が父親になるならいいと思った。
血は繋がってないけど上手くやっていける、そう思ったの。
『正一さん美味しかったです』
「それは良かった。また来ようね」
『はいありがとうございます』
食べ終えて会計を済ますとエレベータに乗る前、正一さんに今日のお礼をした。
会計の時は、値段を見れなくて俯いていた。
“カードで”“一括で”と聞こえたときは心臓が飛び出すくらいビックリしてヒヤッとした。
どれだけお金持ちなの…年商どれだけ稼いでんのよ。
少し汚いことが脳裏をよぎったけどすぐに消した。