「お名前は?」

「福澤です」



レストランの入り口に立つ男性にお母さんがそう言うと中へと案内された。


席は窓側で夜景を眺めることができる素敵な席で、そこに座る2人の男性。



『は?』



突如私の口からこの場に似合わない言葉が漏れてしまったけどそれは仕方ないことで、相手も私と同じような顔をしている。



正一さんと言うこの物腰が柔らかく優しそうな男性の隣にいるのは…


「…お前」


今日、肩がぶつかった残念イケメンだった。


何で…?何でコイツがいるの?


分かってる、分かってるけど分かりたくない。
言われるであろう言葉を聞きたくない。



「あら、沙夜知ってるの?」



“うん”だなんて言いたくない。



「なら話が早いわね」



お願いお母さん。
お願いだからその先を言わないで。



「彼が正一さんの一人息子、福澤千也くんよ」



___あぁ、最悪だ。


お母さんは「よろしくね」なんて千也さんに言いながら席に座っている。


私はというと…心中で毒を、猛毒を吐きながら残念イケメンの前に腰を下ろした。



彼は私をじっと見ているけど私は絶対目を合わせない。


見てはいないけど視界の端に入っていて、ゆるりと口角を上げたのが分かった。



その笑みが一体何なのか、どういう意味を持つのか私には分からない。



「相楽 沙夜だろ?」



私にしか聞こえない声量で言うと、私の答えを待っている。



うんともすんとも言わず、ただ黙った私を見て肯定と受け取ったらしく、またフッと笑うと「噂で知った」と言ってきた。