楽に、なりたい。
『少しは…進みたいっ』
そう口にした瞬間、何かが音を立てて動き出した。
それはきっと…過去で止まったままの歯車。
前に進みたい______きっと、少しは前に進める。
どこで話したいと訊かれ他人といえどこの話を誠人以外の人に耳に入れたくなかった私は「私の家…」と提案すると誠人は一瞬「え?」と焦っていたけどOKを出してくれた。
お洒落なカフェは中止で私たちは手を繋いだまま私の家へと向かう。
隣を歩く誠人は緊張しているのかさっきから口数が少なくなっている。
『お母さんいないから安心していいよ』
「は?…いや、うん」
安心させようと思って言った言葉なのだけれど何故かさらに緊張していて、その緊張がとけることはなかった。
エントランスを通ってエレベーターに乗り込むと私の部屋がある階に着くまで気まずい空気が流れた。
「お邪魔します」と礼儀正しく中に入った誠人を見てやっぱりいい子だよなぁと思った。
リビングに入るとソファへ案内する。
『お茶とコーヒーどっち飲む?』
「コーヒー」
そう答えた彼の為にキッチンに入り準備をした。
静かな部屋にカチャカチャとカップがぶつかり合う音が響く。
『砂糖とミルクは?』
「大丈夫」
『そっか』
話しかけてもすぐに会話が終わってしまう。
コーヒーを2つ用意してテーブルの上に置くと私は誠人の隣に腰かけた。
いつ話を切り出そうかとコーヒーに口をつけながら脳を回転させる。
けどタイミングを伺うと余計にタイミングを逃してしまう感じがして、今すぐに話した方がいいとも思った。
『あのさ…』
私の頑なに開かなかった口はようやく開いた。
繁華街で会った男の名前は名倉平次。
名倉と出会ったのは中学3年の頃。
中学3年の時、新しくなったクラスで1番に話しかけてきてくれたのは喧嘩が強くて周りから慕われてて顔の整った不良と呼ばれる名倉だった。