全ての元凶である男が前から歩いてくる、と言いたくても口がカチカチと震えて上手く言えない。
お願いこっちに来ないで、向こうに行って、呼吸が_______息ができなくなる、頭が可笑しくなりそう。
私に_____気づかないで。
「沙夜?」
久しぶりに聞いたその声は低くも高くもなくて、顔も相変わらず整っている男。
だけど今の私は気持ち悪いとしか思えなくて、誠人の手をギュッと握った。
誠人も握り返してくれて、少し______息ができた。
「久しぶりだな」
『久し、ぶり…』
会うのは2年ぶり。
出来れば一生会いたくなかった。
このままどこかに行ってほしい。
「今日はソイツと寝んのか?」
『…っ、違う』
「違う?違わねぇだろ。お前の噂俺んとこにも入ってんぞ。2年たった今も来る者拒まず去る者追わずなんだろ?」
違う、そう否定したいけど違わない。
合ってるとこも、あるから。
「で、お前も遊びかゲームかなんかだろ?」
と元凶男は誠人にそう言った。
すると誠人は眉間に皺を寄せて「んだテメェ」と反発した。
「俺?中学の時の元カレ」
余計なことを言ってくれた。
もう喋っていたくなくて、ここの空気に耐えられなくて繋いだ手を引っ張って歩き出した。
「おい、沙夜」
「沙夜先輩?」
「待てよ沙夜」
誠人と元凶男が私を呼んで止めようとする。
けど、さすがに面倒になったのか元凶男は呼ぶのを辞めて別の言葉を発した。
「どうせお前は捨てられる」
その場を後にした後も、その言葉がやけに耳にこびり付いて離れない。
何も言わぬまま繁華街を抜けると胸いっぱい酸素を取り込んだ。
『…っはぁ』
「大丈夫か?」
誠人の問いに答えられず、ただブルブルと震えだした。
そんな私の肩を優しく抱いてくれるのは優しい彼。
誠人はそれから一言も発さずに、ずっと背中をさすって抱きしめてくれた。
しばらくして呼吸も落ち着き、震えも止まると下に向けていた顔をようやく上げることができた。
顔を上げた先にあったのは心配そうに眉を八の字にした彼の顔。