私は小声で教えてあげた。

「部長、リクライニングのスイッチは反対側ですよ」

 ぴたり、と三浦部長の手が止まる。

「ああ、すまない」

 ささやくような声で彼が応じて手を引っ込めた。ほとんど聞こえないくらいの音を鳴らして彼の座席の背もたれが傾いていく。

 あ、やっぱりリクライニングの機能を使いたかったんだ。

 三浦部長が私の手を握ろうとしたのではないかとちょっとだけ疑ったことが恥ずかしくなる。

 でもこれは恋愛映画を観ているせいだ、そうに決まってる。

 私がそう自分に言い聞かせていると三浦部長がぼそっと声を漏らした。

「チャンスだったのになぁ」

 ん?

 またも意味不明なことを言っている三浦部長に私は眉をひそめた。

 この人、ときどきおかしなことを口にするんだよね。

 大丈夫なのかな?