「……俺は、信じないからな」
絶対に信じるものか。
「お前が信じようが信じまいが、関係ない───」
男はコツコツと靴の音を響かせながら暗い廊下を歩き、俺の視界から消えた。
「……くん……琉生くん……」
名前を呼ばれて目が覚めた。
白くてまぶしい光が目に飛び込み、顔に手をかざした。
数時間前、闇に包まれ恐怖におびえていた場所とはまるで思えないくらいの明るさだ。いつの間にか、夜が明けていた。
「あ……」
影になって見えたのは、莉緒の母親。
莉緒によく似た黒目がちの瞳が、俺をのぞきこんでいた。
はっとしてあたりを見回すけれど、死の神と名乗った男の姿はもうどこにもなかった。
長椅子に倒れるようにして、俺は眠ってしまっていたらしい。
……あれは夢だったのだろうか。
横たえていた体を起こし、立ち上がる。
おばさんは一睡もしていないのか。目の下にはうっすら隈が出来ている。
「ごめんね、琉生くん。また来てもらっちゃって」
「俺がしたくてしてることだから」