「人間がどう想像しているかは知らないが……まあ、間違ってはいないだろう」
 
男は、コートのポケットから黒い手帳を取り出した。
 
手のひらサイズそれは、皮張りで少し高級そうに見える。もちろん、高校生の俺たちが使うような物とは全然違う。

「ここに、倉木莉緒の寿命が記されている」

「なにをっ……」

奪おうとする俺の手より早く、男が手帳を上に掲げ、俺の手は空を切った。

「第三者に見せるわけにはいかない」

またポケットの中に戻される手帳。

「そんなの……なにかの間違いだろ」

「このノートに書かれた死者のリストに、間違いが起きたことなんて、俺が知るところ一度もない」

「じゃあ、アンタが知らないところでっ──」

「俺はもう150年ほどこの仕事をしているがな」
 
間違いなど起きない──そう言いたいかのように、男は淡々と告げる。

その澄ました顔が憎たらしい。