どうかしたかって、この状況を見ればわかるだろ……って、まるで俺以外の人物は目に入っていない様。
 
目の前の男を見る。確かにいる。

なのに、この看護師にはこの男が見えていないようだった。

「だから、言っただろ?」
 
勝ち誇ったように、不敵に微笑む男。

姿も見えなければ、声も聞こえてないらしい。

「い、いえ……なんでもありません」
 
男を気にしつつそう答えると、看護師は首をかしげながら戻っていった。

懐中電灯の明かりがなくなり、また薄気味悪い光に包まれる廊下。
 
男は、フードをまた目深にかぶり直し、何事もなかったかのように静かにたたずんでいる。

「本当にお前は……死神なのか……?」

そんなことがあるわけないと思いながら、俺の口はそう聞いていた。

鎌こそ持っていないが、その風貌は死神と言われれば相違はないだろう。

「死の神だ」

「……んなのはどうだっていい。人間の魂を取っていく、あの死神のなのかって聞いてんだ」

こんな怪しいやつの言葉なんて信じるものか。死の神だなんて、子供だましみたいなこと。