途中でリタイアせずにどうにか歌いきったものの私の心は暗かった。

 ああ、本田くんにみっともないところを見せちゃった。

 私の心など関係ないと言わんばかりに点数が映し出される。あらら、という菊池さんの憐れむような小馬鹿にするような声が聞こえたが無視した。

 六十二点。

 まあでもあれで六十点以上取れるのだから案外カラオケの採点機能なんてちょろいのかもしれない。ちゃんと歌えたらだけど。

「よし、これでビリは決まったな」

 加藤くんが勝ち誇ったように言い、親指で銀縁メガネのブリッジを押し上げる。ニヤリと笑った彼は私からマイクを受け取った。何だかものすごく自信ありそうなんですけど。

「さて、大野には何をしてもらおうかな」

 すでに勝ちを確信した様子で加藤くんがステージに立つ。演奏される曲は私もよく知ってる曲だ。

 てか、これアニソン?

 直立不動でマイクを握る加藤くんはどこかコミカルだ。

 けど、笑えない。

 加藤くん、めっちゃ上手いんですけど。