私がじろりと睨むと菊池さんは手をぱたぱたと振って言い訳する。
「べべべ別に本田くんに後ろからハグして欲しいとか婚姻届に判子を捺して欲しいとかそんなこと考えてないのよ。わわわ私は純粋にみんなとカラオケを楽しみたいだけで」
「……」
菊池さん。
本音がだだ漏れなんですけど。
というか婚姻届って。
油断できないなあ。
そう私が警戒を新たにすると本田くんが早速リモコンを操作して曲を入れ始めた。
「じゃあ俺からな」
軽やかな前奏が流れる。テクノポップな曲調のそれは私たちが高校生のときに流行った女性アーティストの歌だった。
菊池さんがさっきの狼狽をごまかすように大声で声援を送る。
「わぁ、本田くんがんばってぇ!」
本田くんがうなずいて応じた。