あざとく返事をし、目を瞑る。

しかし、唇に触れたのはほんの一瞬だけだった。



「さっきより短い」

「だって、口紅ついちゃったから……」



不満を漏らすと、清花さんは俺にティッシュを握らせ俯いた。

鏡で確認すると、唇が少し赤くなっている。



「ごめん」

「いいよ。つくのは仕方ないし」



口をティッシュで拭いた後、「嫌じゃないから安心して?」と囁き、彼女のおでこにそっと口付けをした。



「……このキス魔め」

「ヘヘヘ」



もう1回しようとしたが、タイミング悪く、清花さんのスマホの振動音が聞こえた。


……せっかくいいところだったのに。



「お母さんから。ちょっと話してくるね」



電話しながら部屋を出ていった彼女を見送り、自分も連絡が来てないか確認することに。


あれ? 母さん? しかもスタンプまで……。

何だろう。



【5時半に帰る予定だったけど、6時に帰るね♡】



画面に映る語尾と、ハートいっぱいのスタンプ。
瞬時に、気を遣ってくれたんだなと察した。

スマホ画面に映っている時計は午後5時になっている。


あと1時間か……何しよう。