旅するギャラリー『武々1B』の
本部スタッフである
シオンは、

古都、京都駅の大階段を使った
グラフィックイルミネーションが、
年末の 落ち着いた雪華に
なっているのを
1人静かに 見てから、

中央コンコース上空の
空中径路から ロウソクの形をした
京都タワーのライトアップを
みていた。

この場所は地上45メートルの
高さから駅を俯瞰して
見れる、高所スポットで
ありながら、
古都の街並みも一望できる
トンネルイルミネーションだ。

いつもなら、
白のイルミネーションなのを、
雨や星の空模様や
カラフル演出に変わる期間で、

しっとりとした光の中で、
空中から駅を散歩する気分に
なれる、穴場は
シオンのお気に入りの場所だ。

「駅なのに、夜の森にいる
みたいなんだよねーっ。」

シオンはそう、
独り言を言って、この写真を
SNSにアップする。

大階段の
グラフィックイルミネーションは
シーズン毎に柄が変化。

ちょうど5日前まで
タワーはクリスマスカラーに
ライトアップされて、
クリスマスの柄が 大階段に
出現し、巨大なタペストリーに
なっていたはずで、
そして
あと1日もすれば 今度は
新年を祝う柄で 賑やかになる。

「実は、年末の柄は5日間だけ
出現する、レア柄なんだよね」

SNSにアップした写真に
今言った独り言を、書き込み
今度は
目の前のタワーを電話に納める。
改めて
シオンはしみじみと
眼下の駅や
シックな ブルーカラーになる
トンネルの遠くを見やった。

どうして、この駅は
こんなにも どこか 侘びしい?

それは 決して 寂しい意味では
なく、古都の風情味?

違うなあ、気持ちの問題だね。
と、
シオンは ふと思う。

年末限定の雪華柄のせいでなく、

午前中まで
大阪にいてたシオンとって、
昼に着いた
古都のすっと背筋が伸びる
空気感の駅に
気圧されるからでもなく。

「何百年も変わらないって、
やっぱり スゴいことなんだ。」

言い聞かせて、
今撮ったタワーのライトアップを
今度は 本部の先輩スタッフ、
ヨミに写真とコメントを
送信しておく。

「せっかくだから、aloneだけど、
見ていこうっと!」

古都の駅には
イルミネーションの季節に
お伽噺みたいな場所が
あった事を 思い出したのだ。

シオンは、さらに
空中径路の奥へと進む。
観光客もあまりこない 場所が
この先にある。
目指すのは
駅ビルの7階、東広場。

ここは駅のメインルートでなく
離れた端にある為、
人も殆どいない。

なのに
光の植物園をイメージした
イルミネーションの中

光で装飾された
ガセボや、ベルが まるで
シンデレラのカボチャの馬車
みたいに キラキラ光っている。

「わあ、、やっぱり素敵ー」

ガセボの周りには、
白いガーデンテーブルセットが
取り囲んで、乙女だ。

カフェが 開いていたから、
シオンまだ終えていない
食事を ようやく ここに
決めた。

というのも、いつもなら

祖父に連れられて
行った錦市場で、総菜を買って
途中で、食べるのが定番。

なのに
老舗総菜屋に足を運んだ
シオンは、

「えっ、、ウソ、、」

シャッターに貼られた
閉店の張り紙に
呆然とした。


世界中に蔓延した
新型ウイルスによる
自粛の影響は、
古都の台所を支える
古くからの市場さえも
様相を一変させ、

老舗の軒先を消していて、、

シャッター前に立つ
シオンの顔を歪めさせた。

「万願寺のこんぶあえ、
食べたかったなあー。ざんねん」

おじいちゃんっ子だった
シオンにとって、
錦市場の総菜は
大切な思い出の味。

「あの味、忘れちゃうのかな。」

年末の錦市場にしては、
余りに人出が少ないと 予感は
していた。

ガックリと 肩を落として
いると、
向かいの店から
植物園の近くのスーパーに、
総菜屋の店主が作る
総菜が そのまま出ていると
教えてくれたのには、
救われた。

何気ない情報でも、心が
前向きになれた。
から、
次に来た時はー、
絶対買いに行こう!!

ブンブンと相手の手を
両手で握り 礼をして
シオンは
そのまま駅に来たのだ。

永遠にあると、
思っていたモノに変化が
訪れて、戸惑う自分を
打ち消しながら着いた
古都のメインステーションは
御影石色の黒が
目に沁みた。
という
侘びしさかな?

でも、ここはちゃんとある。

『いらっしゃいませ。この時間は
イタリアンビュッフェになります
が、よろしいですか?』

古都の夕食処は基本
どこも人が多いが 当たり前。
自粛ニュースになる
このご時世でも、
駅ビルは 一段と
観光客が ごったがえす。

「全然かまいませんっ。」

その中で、このカフェは
まるで次元が違う世界か、
いつも 静かに
そして、好きな量を
食事出来るのが いいのだ。

プレートを手に、
好きにアンティパストを選んで
パンとメインを
手早く盛り付け、
シオンは
ガセボのイルミネーションが
見える窓に 座った。

100年続く店舗があるから、
祖父は自分に この都の店を
教えてくれた。

きっと この先
シオンの子供にも 教えていける
そんな場所が この古都には
沢山あると 言いながら。

ただ、、、

徐にシオンは
名刺入れから 1枚の名刺を
取り出して、
印字部分を指でなぞった。

そこには、
大企業の名前と 研究所名の
下に、
最近までは 10年以上
会っていなかった、従兄弟の
名前が 手印刷されている。

触ると、名刺にしては
やけに厚手の感触の紙質に、
深めに刻印して
凹凸がでている 従兄弟の名前。

指に引っ掛かりる程、
強く刻まれていて

「レンも、ルイも 来てたんだ」

どれだけ存在感あるかなー。

つい、笑ってしまう。

前日に、
シオンはかつての勤務ギャラリーに顔を出して、
頼まれていた引き継ぎの
最終を終わらせた。

ギャラリーの本部オフィスに
移動してからも、
顧客の引き継ぎが 続いていた
のも、これで終わり。

それから今日になって
当初1番の予定だった墓参りに
行けたのだが、

「まさか3人共、同じ事、
考えていたのは、笑える、、」

祖父や、その祖先が眠る墓に
墓花とする
正月の松を持って来た
シオンの目に入ったのが

日野にある酒蔵のワンカップと、
新しい線香の灰だった。

古都で1番有名な
枝下桜がある公園を
横切った先にある 霊園。

底冷えする石畳を歩いて、
何段もある階段を
昇る。

正月参りを早めに済ませた
墓には、
所々 墓花の代わりに松が
生けられていた。

先祖と眠る、祖父の墓。

酒香を供える為に
蓋を開けられたワンカップ酒に
水滴がついている割には、
見ると
線香の灰が 形良く残っている。

それならと、
墓の名刺入れに 手袋をした手で
シオンが 中を探ると
1枚だけ 入っていたのが、


カフェテーブルの上にある
従兄弟、レンの 名刺だ。

ということは、
易々と他所で手に入らない
ワンカップの銘柄を考えると、
こっちを 供えたのは、
もう1人の従兄弟。

レンの弟、ルイだろう。

そして、管理された墓で
まだ供えられている
水滴がついたワンカップが
示すのは、、、

「ハジメオーナーなら、『この
墓参り人はぁ、少なくとも~
この週には来ているってぇ
事だよねん~』って、言うに
違いないよねっ!どうっ?」

シオンは、自分の雇い主である
ハジメの言い真似をしつつ
フォークをクルクルさせると、
ムール貝入りラタトゥイユを
口に運んで

わざわざお祖父様の
地元ワンカップを供えるって
とこが、
ルイだよねー。
と、
シオンは その推理と味の良さに
上機嫌だと、眉を上げた。

「レンとは、入れ違いにお墓参り
して、2、3日ぐらいかもね。」

まだ形を残したままの
灰を 思い出して、
シオンは
また テーブルの名刺を手にする。

カボチャの馬車みたいに
輝くガセボは、
まるで 箱庭空間。
どこまでも 幻想的に佇んでいる。

この広場は駅に組み込んだ
ブランドホテルの中庭で、

ガセボやベルも、
ウェディングに使える仕様。
女子なら
夢みる空間なはずなのに、
シオンには
祖父の思い出と合わせて
切ない。



音沙汰なしな
関係だった従兄弟達と
再会したのは 彼等の母親が
亡くなったからだった。

成人して 再び会って
思い出したのは、
従兄弟達への 気持ちで。

、、、

シオンと 2人の従兄弟達は
きっと
子供の頃から思慕する
互いの存在で

対角線上に
動けないまま
トライアングルな
ディスタンスを 取っている。

「お祖父様が生きていたら、
どうしたらいいか、すぐに
教えてくれるのかなー、、」

せめて、
祖父が眠るあの墓の前で
聞けばいい 台詞を
呟いて
シオンは
今度はフォークに巻いた
パスタを口に入れる。

「うん!美味しいっ!」

何でもないな、フリして
飲み込んだ
シオンは、手にした
名刺を失くさないよう
カードケースへ直すのに、
鞄を開けて、

電話の着信と留守電を
知らせる点滅が付いているのを
見つける。

「あれ?全然気が付かなかった」

シオンは
電話の留守電内容を
文字表示させて、目を見張る。

そのまま
テーブルに電話をパタリと
置いて 指を組むと、
光るガセボを見つめた。

電話には、

『令嬢マイケルが消息不明』

と、状況を伝える内容が留守電の
表示にされ
それが 延々と続いていた。

ギャラリー探偵の異名を持つ
雇い主に折り返さなくてはと
シオンは、
優しい苦味の珈琲を
飲み干した。