いつの間にか、君に恋していたんだ。



ドキドキしながら、輝楽さんに注目していると……


「昨日何で何も返してくれなかったの?」


「えっ……」


まさかの内容にびっくりした。


昨日送ってくれたんだ……


でも、私は連絡先を消されてて気づかなかった。


「俺、待ってたんだけど……」

 
どこか拗ねたような顔をしていて、私は慌てて弁解した。


「すみません!その、今朝起きたら輝楽さんの連絡先が消えてて。多分、私の手が当たっちゃったんじゃないかと……」


「なるほど。でも、それ本当に手が当たったの?」


「えっ……」


「あいつらが関係してるんじゃない?」


見透かすような目。


もしかして、輝楽さんも私と同じことを考えてるんだろうか……


そういえば、輝楽さんは奈々美さんに限らず裕美さんにもいい感情を抱いてないみたいだし……


「いえ、多分違いますよ」


でも、私は笑って首を振った。


輝楽さんはそんな私をじっと見つめていたけど……


「なら、いいけど……じゃあ、交換しようか」
  

「はい」


輝楽さんと再び交換。


もう1度やりとりできる、そう思ったら嬉しくて。


「ありがとうございます」


「お礼なんかいらないよ」


 


こんなに嬉しいのは、きっと私だけ。


輝楽さんは少しも思ってない。


でも、それでもよかった。


「っていうか、輝楽兄と伊鳥っえ交換してたんだな。俺知らなかった」


「結構前に交換してたんだよ」


「ふーん」


太陽君は何故かチラッと輝楽さんを見て……


「はぁ、強力なライバルだよなー」


「それは俺も思ってるけど」


輝楽さんと太陽君、2人からバチバチ目から火花が出てるような気がして戸惑う。


な、なんだろう……


私はよく分からないまま、どうしようかとオロオロしてしまった。


「あ、あの……」


困惑しきった声に気づいたのかな……   


2人はこっちを見た。


「ごめん、伊鳥!」


「今のは気にしないで」


も、もしかして、単なる私の気のせいだったのかな……?


「わ、分かりました」


少し気にしていたけど、仲良い2人だし大丈夫だよねって思うことにして、私は笑った。








ご飯を作って家を出る。


太陽君に後であいつらって誰?って聞かれたけど、曖昧に答えておいた。


あの2人、鋭いから怖い。
  

特に輝楽さんは。

 
もう全部分かってるんじゃないかって思うほどだけど……さすがに私の過去は知らないよね。


……知ってたら、真逆にびっくりするけど。
  

「あ、明日は来なくていいから。俺も太陽も結構遅くまでバイトあるし」


「あ、はい。分かりました」


そんなやりとりを最後に家を出た。 




私の家に着き、中に入ると玄関に奈々美さんがいた。


……最近、こういう出会い方多いな。


何を言われるんだろうかって少し身構える。


「随分嬉しそうな顔だけど、また輝楽さんと連絡先交換したわけ?」


奈々美さんが鋭く私を睨み付けてきた。


怖気づきそうになったけど、頑張って聞いてみる。


「輝楽さんの連絡先消したのは、奈々美さんですか?」


認めるわけない。


そう思いながら聞いたけど……


「えぇ、そうよ」

 
意外にもあっさりと認めた。

 
「どうして……」


「決まってるじゃない!気に食わなかったからよ!あんなにも近づかないでって言ってるのに、近づくし。あんた見てると腹立ってくる!もう金輪際、輝楽さんに近づくのやめなさいよ!でないと、今度はもっと酷いことするわよ!」


……やってられない。


私はここで生きていくしかないの……?


「そんなの奈々美さんが決めることじゃないです」


それだけ言って、部屋の中に入った。


もうこんなところにいたくない。


今まで我慢してきたけど、もう無理。


明日にでも荷物を持って、あの人のところに行こうかな……


また何かされたら怖いから、今日は鍵をかけた。


ベッドに入ると、奈々美さんのことで疲れていた私はすぐに眠りに落ちた。




朝になると、裕美さんと奈々美さんの両方から怒られてしまった。


何もせず部屋に入っちゃったから。


奈々美さんの場合はそれだけじゃないと思うけど……


ふぅと息を吐く。


しばらくあの家にいたくない。


でも、それをあの人は受け入れてくれるのかな……?


それが不安だったけど、裕美さん達にバレないように抜けて向かう。


数十分歩いたところで、大きな家が見えてきた。


ここだ……


家の前に立つと、懐かしい気持ちになる。


……久しぶりだな。


行ったのは結構前で、まだお母さんが生きていた頃。


それ以来行ってなかったから。


覚えてくれてるかな……?


ドキドキしながららドアホンに手を伸ばした。


ピンポーン


「はーい」


その声と共にガチャッとドアが開いて、小夜さんが出てきた。


「あら、もしかして……あなた、伊鳥ちゃん!?」


「はい、そうです。なんの連絡も入れずに来てしまってすみません」


「ううん、いいのよ!さぁ、どうぞ!上がって上がって!」


小夜さんはすごく嬉しそうで、私も嬉しくなった。


小夜さんは私のお母さんの姉で、私の叔母にあたる人。


小さい頃、よく遊んでもらっていたんだ。   





「お邪魔します」

 
そう言ってから、入らせてもらった。


「ふふっ、相変わらず礼儀正しいのね。どうぞ遠慮なく上がってくれていいのよ?ここは、あなたの第2の家なんだから」


変わらない優しい言葉。
 

その言葉にホッとした。


「ありがとうございます」


「うんうん。それにしても、伊鳥ちゃん綺麗になったわね~」


綺麗になった……?


ううん、これはただのお世辞だよね。


それか、贔屓目で見てるか。


「そうですか?」


「えぇ。昔は可愛いって感じだったけど、今は可愛さに加えて綺麗さがプラスされた感じよ。さぞかし、学校でモテるでしょう?」


私にそんなことを言われても……


戸惑ってしまった。


大げさだし、そもそもモテてるわけないのに……


「モテてないですよ」


「えっ、それは嘘よ。私でも思うもの。男の子だったら、絶対思ってるわ」


本当なのに……


やっぱり、贔屓目で見られてるよね。


お礼言うだけにしとけばよかったかも……


「まぁ、無自覚な伊鳥ちゃんに言っても無駄ね。今お茶準備するから、適当なとこに座ってて?」


「あ、はい」


私の家より明らかに高そうなソファーに遠慮がちに座った。


……ほんと、小夜さんの家って大きい。


初めて見た時も思ったけど……




小夜さんの夫である星耶さんが大きな会社の社長だからっていうのもあると思うけど……


「お茶持ってきたわよ~」


朗らかな笑顔を浮かべて、お茶を持ってきてくれた。


私の座っている机の前に置いてくれる。


「ありがとうございます」


「ふふふ、いいのよ。それにしても、どうしたの?何かあったから、うちに来たわけでしょう?」


小夜さんは、もしかしたら察しているのかもしれない。


勘が鋭い人だから。


それにしても、私の周りには勘が鋭い人が多いな……


「はい、もうあの家にいたくなくなったんです」


「まぁ。それは嫌がらせで?」


「まぁ、そんな感じで。今奈々美さんには好きな人がいて、その人はものすごくモテていていろんなところで有名なんです。その人とひょんなことから関わるようになって、連絡先の交換もしました。その連絡先を奈々美さんに消されて、もう1度交換したんですけど、もうその人と関わるなって言われてしまって……なんか、もう疲れてしまったんです」


あまり上手く説明できなかったけど、伝わったかな……?


「まぁ、そんなことが……それは嫌になるわね」


苦笑いしながら……それでいて、私に優しく微笑んでくれた。







「それにしても、そんなモテる人がいるのね。まるであの子みたいだわ」


「あの子?」


「うちの店のバイトをしてくれてる子なんだけど、間違いなくうちの店で1番と言ってもいいくらいモテてる子なの。それに、結構有名みたいで。店に来るに来る子はだいたいその子目当てなのよね」


すごい。


そんなモテてる人いるんだ……


まるで輝楽さんみたい。


「すごいですね」


「そうなのよ~その子が来たことで、間違いなく売り上げが上がったの」


きっと素敵な人なんだろうな。


会ってみたい……


って、あ……


話が脱線しちゃったけど、お願いしなきゃ。


「あの、それで小夜さん」


「何かしら?」


「しばらくここに住まわせてもらえませんか?」


ダメって言われる可能性もある。


ドキドキしながら、小夜さんの返事を待っていると……


「もちろんいいわよ!連絡は私から裕美さんにするわね。その方がいいでしょう?」


「はい、お願いします」


よかった…… 


顔を上げると、にっこり笑った小夜さんが見えた。


「その代わり……」


あっ、何か条件があるんだ……


でも、それは当然。


無料で住ませてもらうわけだから。


ゴクッと喉を鳴らして、その言葉の続きを待つ。


「うちの店でバイトをしてもらうわね」


 

えっ、バイト……?


小夜さんの店で?


予想外の言葉に驚いてしまう。


そんなことでいいのかな……?


「いい?」


「はい、もちろんです。やります」


「ありがとう~うち、最近スタッフ少なくて困ってたの。伊鳥ちゃんが来てくれた方が売り上げ上がるだろうし、一石二鳥ね。もちろん、給料は払うわ」


「えっ、給料はいいですよ」


「いいから。そうしないと、悪いもの。それに、私の店でブラック企業を出すことになっちゃうわ」


悪戯っぽく言われて、何も言えなくなった。


戸惑いながらも、頷く。


「分かりました。本当にありがとうございます」
  

「お礼なんていいわ。じゃあ、今からお店に行きましょう!」

 
「えっ、今からですか?」


「そうよ、今から!」


急にテンションが高くなった気がする……    


そのまま、私と小夜さんは小夜さんのお店に向かった。


「あの、小夜さんのお店ってなんて名前ですか?」


「んー、それは秘密よ~着いてからのお楽しみね」


すごく楽しそうで、私は訳が分からず首を傾げた。


「着いたわ」


「えっ、ここって……」   


着いた場所は、夜の星って書かれた看板のあるお店だった。
 



嘘、ここなの……?


まさかの場所に驚いてしまった。


ここ、夜の星は男女共に人気のカフェで、内装もとてもオシャレ。


テレビでも取り上げられたことのあるくらいの人気店。


しかも、店員さんは皆美男美女らしい。


目の保養になるってことで来る人も多いみたい。


「小夜さんはここのオーナーなんですか?」


「そうよ」


「あ、あの、私美女じゃないですけど……」


「美少女でも大丈夫よ?」


何言ってるんだろう、この人は……


私、美少女ですらないのに……


皆美形らしいから、確実に私は浮いてしまう。


お客さんも私でがっかりしてしまうよね。


「私、そもそも美少女でもないです。私が入っても何の得もないですよ」


「伊鳥ちゃんはほんと無自覚ね。小鳥に似てるわ」


久しぶりに聞いたお母さんの名前。


無自覚……?


確かに、お母さんは無自覚だったけど……私はそうじゃない、よね?


でも、それはいろんな人に言われてるけど……


「大丈夫よ。それに、やるって言ったのは伊鳥ちゃんでしょう?」


意地悪くそう言われて、何も言えなくなった。   


確かにそうだ……


「そうですね。私なりに頑張ってみます」


それが条件なんだし、顔は良くなくても仕事はきちんとしよう……!