「その気持ちだけで十分ですわ。あなたの手は、困っている人のために使ってください」

 イネスが遠回しに諦めるよう言っても、ガルニールの気持ちは変わらないようだ。
 この話題は終わりとばかりに、「ところで」と彼は言った。

「ロスティ国での生活はいかがですか?」

「良くしてもらっているわ。わたくしなどにはもったいないくらいよ。この服も……キリル様が用意してくださったのです」

 フリルがついた袖を見せながら、イネスは「すてきでしょう?」と微笑む。
 彼女が身につけているものは、頭のてっぺんから足の先まですべて、キリルが用意したものである。
 すっかりロスティ色に染まった彼女を見て、ガルニールは眉をひそめた。
 だが、それも一瞬のことで、すぐさま聖職者らしい──胡散臭いとも言う──笑みを浮かべる。

「もったいないなど……あなた様はアルチュールの至宝なのです。そのように思う必要など、ございません。それよりも……私の手紙は届きましたか?」

「手紙……? ああ、あなたの来訪目的が書かれた──」

「それ以外には? 何かお気づきになられませんでしたか?」

 イネスの言葉に被せるように、ガルニールは問いかけた。