というのも、イネスのかわいい人ときたら、彼女のことを想いすぎるあまり神格化しているような節があった。
 そのせいで、結婚前はキスどころかハグさえやんわりと断られる始末。このままでは、新婚生活にも支障が出そうである。

 というのは建前で。
 イネスはキリルと、恋人らしくベタベタしてイチャイチャしたかった。

 アルチュール国では、親が決めた結婚相手、もしくは婚約者としか触れ合ってはいけない。
 自由恋愛なんて、もちろん禁止。結婚を約束しなければ、手を握ることさえできないのだ。

 はじめて触れても良い男性が現れて、しかも好みで、なおかつ愛されている。
 ならば、ためらう必要がどこにあるのだろう。
 自由恋愛や恋人との甘い時間に憧れを抱きながらも諦めていたイネスが、「ためらう必要などありませんわ!」と断言するようになるのに、そう時間はかからなかった。

 触れ合いたいイネスと、恐れ多いと逃げるキリル。
 そんな、未来の国王夫婦の関係に変化をもたらしたのが、ピケとノージーだった。