「どうだ?」

これでいいかと尋ねられ、

「いいと思います」
と返事をした。

「ところで、何で泣いていたんだ?」
「・・・」

「そんなに簡単に泣くようには見えないから」

「色々あるんです。女の世界は」

こんなところで専務に告げ口しようとは思わない。
そんな女は私も嫌いだ。

「上司である俺にも言えないことか?」

「上司だから言えないんです。見ない振りしてください」

「誰だよ。何を言われたんだ?」

なんだか急に不機嫌になった専務。

「大体、お前もお前だよ。虐められて黙って逃げ出すな」
なぜか私にまで怒っている。

「だから、もういいんです。放っておいてください」

「いやだ。誰に何を言われた?」

この押し問答はしばらく続いた。


「言わないんだったら、部長に調べさせるぞ。歓迎会で今井を泣かせたのは誰だって」

「もー、いい加減いしてください」
私は立ち上がった。

心配してくれているのは分かっている。
でも、専務が出て行けば話がこじれるのも事実。

「私には私の生活があるんです。必要以上に干渉しないで」
そう言うと私は店を飛び出した。



「オイッ、待てよ」
すぐに専務が追ってきた。

「もういいです」

「何で怒るんだよ。俺はただ心配しているだけだろう」

「それが余計なんです」

私は駆け出した。

よく考えれば、お酒に酔った体で何で走ってしまったのか、そんなことすればどうなるか結果は見えているのに。
その時の私は、ただその場から消えたかった。