「いらっしゃいませ」

そこは、小さいけれど落ち着いた感じのするバー。
50代くらいのマスターが1人カウンターに立ち、20代半ばの女性が3つあるテーブルを回っている。

「お車ですか?」

「ああ」

「お嬢さんは、何かお好みがありますか?」

「いいえ。あの、もうかなり飲んできたので、アルコールでないものを」

「はい」

それだけ聞いて、マスターは私と専務にノンアルコールのドリンクを出してくれた。

私には薄いピンク色のドリンク。
専務には綺麗なブルーの炭酸。

「お嬢さんはザクロ入りのスムージー。渉さんはミントのスカッシュです」

キレー。

無言でグラスを持った専務も、そのままの表情で口をつける。

私も、
「いただきます」
うわっ、美味しい。

「これ」

専務が封筒を1つカバンから取り出した。

「何ですか?」

「契約書」

契約書?

「朝言っただろう。友達に作ってもらうって」

「はあ。確かにそんな話をしました。でも、そんな時間がどこに」

あっ、午後から1時間ほど出かけるって、このため?
それに、

「こんなにちゃんとしたものでなくてもいいのに」

「お前は分かってないなあ。ちゃんとした物を残さないと、突然約束を反故にされたときに困るだろう?」

「そんな事しません」

「どうだか」
信じられるかって表情。

とにかく確認してお互いにサインをしようと言うこととなり、書類に目を通す。