店を出て、駅までは徒歩で5分ほど。
私は酔いを覚ましながら歩いた。

社会は厳しい物だと分かってはいる。
でも・・・辛い。

高校の音楽教師の母さんも、国語教師の父さんも、私が教師になるのを望んだ。
何度も説得された。
でも、私は今の仕事を選んだ。
そのことを後悔はしない。

「でもねぇ」
つい口に出してしまって、

さっきの先輩達の言葉がよみがえる。
お酒のせいとは思うけれど、酷すぎる。

その時、

「ねえ彼女、1人?」

声を掛けて来たのは、20代前半くらいの男の子3人組。

私は無視して駅に向かった。

「よかったら一緒に飲もうよ」
しつこくついてくる3人。

「なあ、少しだけ飲もうよ」
それでも無視する私の腕を、1人がつかんだ。

「やめて」

「ねえ、行こうよ」
グイッと腕を引かれ、私が体の向きを変えそうになったとき、

「オイッ」
いかにも不機嫌そうな、聞き覚えのある声がした。

どこだろうと見回すと、路肩に止った車の中から。

ん?

左ハンドル。
外車だ。

そこにいたのは、運転席の窓を開け顔だけ出した松田専務。

「何してるんだ。乗れ」

一瞬考えた。
このまま車に乗っていいのだろうか?
でも、ここにいればナンパされてどこかに連れて行かれてしまう。
私は掴まれていた腕を振り払い、専務の車に乗り込んだ。