トイレの個室に入ると、少し戻した。

元々お酒は嫌いではない。
でも、強くもない。

「もう、何なのよあの新人。やけに専務が肩を持っちゃって」
「ほんと、調子に乗ってるのよ。中野商事との打ち合わせでも勝手に通訳をしたらしいわよ」
「生意気なのよ」
ドアの向こうから聞こえてきた先輩達の声。

うわー、出て行きにくい。
どうしよう。
このまま少しじっとしていようか?

その時、

ピコン。
萌さんからのメール。

先輩達の声が止った。

困ったなあ。
でも出て行かないわけにはいかない。

ガチャッ。
私はトイレの個室を出た。

突き刺さるような視線を向けるのは3人。
みんな中堅どころの秘書さん達。

「盗み聞きなんて悪趣味ね」

そんな、盗み聞きなんて・・・

「これも専務に言いつけるの?」

「いいえ」
それだけ言うのがやっとだった。

知らないうちに涙が出ていて、溢れそうになるのを必死にこらえた。

ダメ。
こんなところで泣いたら、ますます虐められてしまう。

私はトイレを飛び出した。