本日、先ほどの勤務をもって、株式会社SK企画を退職いたしました。
 今後は実家の家業を手伝いながら、フリーランスとしての仕事も始める予定です。
 家業は鑑美苑というドレスや宝飾品を扱っている会社です。
 会社があるのは京都ですし、日常的には縁のない事業ですけど、もしそういったものが必要な際はぜひご用命ください。
 新卒で入社してからの6年間は、私にとってかけがえのないものでした。
 ご存じの方も多いと思うんですけど、私、新人の頃は典型的なぶりっ子で、なんていうか、世の中をナメているところがありました。
 だけど、みなさんと仕事をする中で、挫折を味わい社会の厳しさを知って、人間的に大きく成長させていただきました。
 SK企画での経験、そしてみなさんとの出会いは、私の人生において大きな財産です。
 みなさんのこれからのご活躍とご健勝を、心よりお祈りしています。
 6年間、本当に幸せでした。大変お世話になりました。
 ありがとうございました。

 大きな拍手を浴びながら、深々と頭を下げる。
 話の途中から感極まって泣き出してしまい、指で拭っても涙が止まらなくて、もう化粧がどうなっているかわかったもんじゃない。最後だからできるだけ綺麗な顔を見てもらいたかったのに。
 中には一緒に泣いてくれている人もいて――特にまりこと理沙先輩は私以上にボロボロ泣いていて、目を真っ赤にしている。
「沼田さん、ありがとうございました。そして本当にお疲れさまでした。それでは――」
 広瀬が会を締めようとした時、「質問がありまーす」と手を上げた人がいた。高橋さんだ。
「沼田さん、京都に戻るんだよね?」
 高橋さんはそう尋ね真横にいる青木さんをちらりと見た。
 青木さんとは遠距離になるのか、というのが本当の質問だろう。
 遠くの席で理沙先輩が「え〜なかなか会えなくなっちゃう」とまた泣きそうになるのを視界に入れつつ、私は正直に答える。
「いいえ。このまま都内で暮らそうと思っています」
「ええっ?」
 ひときわ大きな声で驚いたのは青木さんだった。
 必然的に彼に注目が集まる。