「沼田さんの彼氏って」
「青木さんかよ……」
 そりゃ敵わねーやと、ふたりは首を横に振った。
「いててててて! 痛い! 痛いっす!」
 青木さんは高橋さんの頭をまだ手放していない。グリグリと刺激し続けている。
「俺よりこいつを楽しませるんだって? どんなデートプラン立てるつもりなのか、詳しく聞かせてもらいたいなぁ」
「すみませんごめんなさいお相手が青木さんだとは知らなかったんですー!」
 この三人と青木さんはふだんからとても仲がいい。青木さんは彼らにとっては直属の上司でもあるし、彼らの入社当時、一人前の営業マンになるまで教育したのは青木さんだったと聞いたことがある。
「3人揃って消えたからどんな悪巧みをしてるのかと思って来てみたら、まさか俺の女に手を出そうとしていたとは。油断も隙もない」
「俺らは連絡先教えてもらっただけです」
「そうそう、手を出そうとしたのは高橋だけ」
「ちょっ……この裏切り者!」
「ほぉ~? みっちり再教育したほうがよさそうだな」
 彼らはいつものようにわちゃわちゃしながら、青木さんに押し戻されるように部屋へと戻っていく。
 予想だにしなかった展開で関係を公表することになってしまった。
 おもはゆいけれど、彼が私を自分の恋人であると主張してくれたことが嬉しい。
 私は彼らのコントのようなやりとりをクスクス笑いながら、幸せな気持ちで彼のうしろをついていった。

 私が席に戻ると、広瀬は見計らったように立ち上がった。
「みなさーん。宴もたけなわではございますが、そろそろお時間になります。沼田さん。最後にひと言頂く前に、僕たちからプレゼントがあります。曽根さん、よろしく」
 広瀬の呼びかけに、まりこが「はーい」と応え、テーブルの下から大きな紙袋と小さな紙袋を取り出す。
 大きい方は花束だった。持ち帰りやすいよう、袋に入れてくれたようだ。
「愛華さん。本当にお疲れさまでした」
 まりこは優しい手つきで紙袋から花束を取り出し、私に渡してくれた。バラが含まれていて、とてもいい香りがする。
「ありがとう。すごく綺麗」