「ああっ! 高橋、おまえ、抜け駆けすんなって言っただろ!」
「戻ってこねーと思ったら、やっぱりかよ!」
 またふたり、部屋の方からやってきた。同じくうちの事業部の先輩たちだ。
「沼田さん、俺とも連絡先交換お願い!」
「俺も!」
「あ、はい。ぜひ」
 またふたり、友達の数が増えてしまった。
「ちょっと、邪魔しないでくださいよ~」
 高橋さんは不満そうだが、彼より先輩が来てしまったので強く出られないようだ。
「沼田さんのこといいなって思ってるの、こいつだけじゃないから」
「俺なんか、入社当時からずっといいと思ってたし」
「いやいや、俺もですから!」
 急にモテ期が来て、自分でも驚いている。
 というか、前からよく思ってくれていたみたいだけれど、全然気が付かなかった。
 さて、どうしたもんか。
 青木さんとの関係を会社に公表するかどうかについては、必要ないと思って話し合っていない。
「沼田さん、この間彼氏いないって言ってたよね」
「えーっと」
 雑談の流れでそんな話をした気がする。
 嘘はついていない。当時は本当にいなかったのだ。
「その反応……もしかして最近できた?」
「実は……はい」
「えーっ!」
「あはは……だからすみません。個人的にお会いしたりするのは、ちょっと」
 先輩たちはなんだ~と残念そうに、しかし冗談っぽく明るく振る舞ってくれる。話をいい感じに切り上げられそうだと思ったのだが、高橋さんが声をあげた。
「俺、彼氏がいても諦めない」
「え?」
「一回でいいからデートして。俺、彼氏より楽しませる自信あるから!」
 食い下がるように迫ってきた、次の瞬間。
「おー高橋。おまえ、いい根性してんじゃねーか」
 安っぽいヤンキーのようなセリフが聞こえたと思ったら、高橋さんの頭が何者かの手に鷲掴みにされた。
「いって!」
 3人は……いや、私も含めた4人は、突然現れた青木さんに喫驚する。