「いえいえ、妊婦さんは無理せず座っててください。大地先輩は、仕事でやりとりはしてましたけど、顔を合わせるのは久しぶりですね」
「うん」
 大地先輩は相変わらず口数が少なく、無表情。そして相変わらず綺麗な顔立ちだ。
 だけど入社当初よりときめかなくなったのは、青木さんのせい、かな。
「久しぶりの再会がお別れの挨拶になっちゃいました」
「またいつでもうちに遊びに来て」
 彼はそう言って、にこりと微笑んだ。
 やっぱり前言撤回。彼のレアな笑顔を見たら、やっぱり少しはときめいてしまうみたい。
「はい。必ずうかがいますね」

 私のために来てくれたたくさんの人たちと話をしていると、あっという間にラストオーダーの時間が来てしまった。
 会の最後に主役として挨拶を求められている。
 私は一度お手洗いに立ち、なにを言おうか考えながら部屋に戻っていた。
「あの、沼田さん」
 お手洗いを出たところの角で声をかけてきたのは、同じ事業部でひとつ上の先輩、高橋(たかはし)さんだった。
 課は青木さんと同じコンテンツ課だけれど、何度も同じチームで仕事をしたことがあるのでよく知っている。
「高橋さん、どうしたんですか?」
「いや、ほら。沼田さん、今日が最後だから連絡先を教えてもらおうと思って」
「あ、はい。もちろん」
 とてもお世話になっているけれど、そういえば彼とは社用のツールでしか連絡を取っていなかった。
 私はポケットからスマートフォンを取り出し、トークアプリのQRコード画面を開く。
「ありがとう」
 彼がそれを読み取り、新しい友達として登録。すぐに「よろしく」と書かれたスタンプが送られてきた。
「あのさ、俺、ずっと沼田さんのことかわいいと思ってて」
「えっ?」
 これは……まさか。
「もしよかったら、個人的に会えないかな。ふたりきりで」
 ぶりっ子をやめて以来、男ウケなど一切狙わずに働いてきたので、まさか青木さん以外で私に興味がある人がいたなんて思いもしなかった。
「えーと……」
 どう答えていいかわからず戸惑っていると。