「まあいいけど。いずれ慣れるだろうし」
 彼はそう言いながら、私の羞恥を煽るように残りの衣類を取り払っていく。そして自分の服のように雑には放らず、シワにならないよう優しく投げた。
 彼はまだ下を履いているのに対し、私だけは一糸まとわぬ姿だ。
 肌を晒すのは初めてではないけれど、なんだか妙にドキドキしてきた。
「なんて顔してんだよ」
「だって、恥ずかしくて」
「今さら? 俺ら、すでに何度もしてんのに」
「だって、今までとは心境が違うんだもん」
 これからこの人とひとつになる。
 今までのように大人のお遊びのふりなんかじゃなく、愛し合うための特別な行為として。
 そして一生の思い出に残るであろう輝かしい記念として。
 することは同じかもしれないけれど、する意味は大きく違っているのだ。
「そう言われると、俺もちょっと緊張してきた」
「でしょ?」
「だからって、俺はモジモジするつもりなんかないけど」
「ひゃあっ!」
 突如再開した甘い攻撃に、条件反射で声が出た。
「そろそろ余計なおしゃべりはやめようぜ」
 暴くように激しくて、包み込むように優しい、甘苦しい感覚に支配されていく。
 すぐに「恥ずかしい」なんて考えられないほど余裕がなくなって、彼とのこの濃密な時間を味わうことしか考えられなくなっていった。
 ふにゃふにゃになるまで籠絡され、彼のすることに素直に反応するしかできない。
 甘い蜜にどっぷり浸かっているみたいにぐずぐずに溶かされて、もう起き上がることさえままならない。
「ねぇ、どうしよう」
「なにを?」
「たくさん“好き”って言っちゃいそう」
 これまでだって本当は、何度も口を滑らせそうだった。
 快感に溺れるたびに思いが膨らんで、溢れそうで、口が滑ってしまう前にキスをねだって塞いでいた。
 力なく訴えた私に、彼は指を絡めて応える。
「思う存分言えばいいだろ。俺も言うよ」
「うん。聞きたい」
 今日からはもう耐えなくていい。我慢しなくていい。
 ちゃんと伝えよう。たくさん伝えよう。
「好きだよ」
「私も好き」
 今まで我慢したぶん、たっぷりと。