開錠したのは彼、扉を開けたのは私。
 大きな窓とふたつのベッドのある部屋だった。
 バッグとコートを片方のベッドに放り投げ、もう片方のベッドには彼を押し倒す。
 靴は部屋に入ってすぐ、扉の近くのどこかで脱ぎ捨てた。そこらに転がっているだろう。
 彼に跨ってネクタイとベルトを引っこ抜き、それもまた隣のベッドへ放る。
 さあ次はシャツのボタンを外してやろう、なんて考えていると、急に視界がひっくり返った。彼が私を見下ろしている。
 私の方がマウントポジションを取っていたはずなのに、逆転されてしまった。
 彼は自分のシャツのボタンをいくつか外し、中のTシャツと一緒に雑に脱いで放った。
 男性らしい筋肉と下腹部の手術痕が露わになり、私の好きな彼特有のにおいが濃く漂う。
 髪が乱れた上半身裸の彼が、私に跨っている。
 なんて艶麗で扇情的なのだろう。たまらない。
 感情が昂って息を吸うことすら難しい。首のうしろあたりから全身をめぐるホルモンのようななにかが全身を甘く痺れさせている。
 私も自分でトップスを脱いだ。放ったけれど、隣のベッドに届かずこのベッドとの間に落ちた。
 彼が私の首元に噛み付く。
 比喩じゃない。本当に甘噛みしている。
「ちょっ……やだ、跡が付いちゃう」
「別にいいだろ。おまえは明日も休みなんだし」
 至るところを噛んでは吸い、舐め上げる。
 勢い余って跡が付いた、ということではなく、跡を付けるためにそうしているのだとわかる。
 いつの間にか下着は外れていて、スカートのファスナーまで下ろされていた。
 こちらがマウントを取り戻そうとしても簡単にねじ伏せられて、私は彼の意のままに甘い声をあげることしかできなくなった。
 気づいた時には私のデコルテはキスマークだらけ。自分では見えないけれど、たぶん首も。
「こんなに跡を付けなくたって、私には青木さんだけなのに」
「此の期に及んで会社にいる時みたいに呼ぶなよ」
「だってそっちの方が慣れてるから、つい」
 あなたの拗ねた顔が見たかったから、とは言わない。
 改めて下の名前で呼ぶのが照れくさいから、とも言わない。