「それで、今日も釘宮さんのオススメを教えて欲しいんですけど」

「え、今日もですか?」


一昨日オススメしたものを買ったばかりだというのに、もう次だなんて。

いや、確かに売り上げは上がるし良いのだけれど…彼、黒崎さんと出会ってオススメ本を買ってもらった数は余裕で二桁に達している。


それに、最近は店に現れる頻度も多い気がする。


「お金の事は気にしなくていいですよ。僕が読みたくて買ってるんですから」

「…でも」

「そうだ、樹 春子以外でオススメってありますか?」


嗚呼、ダメだ。このキラキラでふわふわな笑顔には勝てない。

顔がいいってだけですべて許されてしまいそう。
きっといろんな女の子を泣かしてきたんだろうなと思ってしまった。


罪作りな男だ。


「それじゃあ…」


と、私は有名小説家の本が並べられている棚の前を素通りして、奥の人の少ない本棚へと足を向けた。

王道が面白いのはもちろんの事、だけどあまり名の知れていない作家でも面白い作品は星の数ほどある。


それが一部の人間しか知らないのは可哀想な話だ。