「これです」

「え、これって…」

「官能小説です。読んだことありましたか?」


だから、私が1人でも多くの人に教えてあげられればなと思う。


「読んだことはないけど…」


私が彼に手渡したのは“溺愛”という作品で、エロを含みながらも複雑な人間関係をうまく表現したもの。


その多彩な文章力に私は魅了された。

官能小説だからって引かれたり馬鹿にはされたくない。
もしかして、黒崎さんもその1人だったりしないよね。


彼は目をぱちくりとさせて、本を見つめ固まっている。


「引きました?」

「引きはしないよ。ただ、釘宮さんもこういうの読むんだなって少し驚いただけ」

「それなら良かったです」


どうやら嘘はついていないらしい。本当に驚いているだけみたい。

確かに、普通の女子高生が官能小説に手を出すなんてこと滅多にないから驚くのも無理はないかもしれない。


でも、それ以外にも彼からは何かを感じる…これは一体何だろう。