「襲われたって、あいつらにか?」

「あの、別にたいしたことじゃなくて……」

「んなわけねぇだろ。正直に話せ」
 

腕を強くつかまれると、痛いほどの力が健吾の手から伝わり、その真剣さに恐ろしくなった。


ごまかせない。

隠すことなんか許してくれない、健吾の瞳。
 

あたしはごくりと、唾を飲みこんだ。



「実は……夏休み最後の日に、健吾のバイト先に行ったの」

「………」

「そしたら突然あの人たちが現れて、連れて行かれそうになって」

「………」

「でもね、アキが助けてくれたおかげで逃げきることができたから、本当に何もなかったんだよ」
 


話を聞く健吾の顔からは、表情が完全に消えうせていた。

それがよけいに不気味で、あたしは不安になった。


「そうか、わかった」
 

低くつぶやくと、健吾は早足で歩き始めた。

どこに行こうとしているのか、なんて聞かなくても理解できる。


「待って、健吾!
 行っちゃダメ!」
 

懇願するように引き止めても、健吾は足を止めようとしない。

冷たい無表情の中には、はっきりと狂気が潜んでいた。