力強く引っ張られ、固まっていた体がやっと動きだす。


前方は立ちふさがれていたので、フェンスのすき間を抜けて裏道に入った。
 

ヒールのある靴を履いているせいで、速く走れない。今にも転びそうになる。

それに気づいたのか、アキは雑居ビルに目をとめて、駐輪場の壁のかげに逃げ込んだ。
 

あたしたちは崩れるように座りこみ、肩で息をした。
 

たいして走っていないのに、激しい心臓の音が、頭のてっぺんまで響いている。


「しっ」
 

アキが人差し指を立てたので、あわてて息をひそめると

コンクリートの柵のむこうに数人の足音が聞こえた。


「………」

 
足音はすぐに通り過ぎ、聞こえなくなる。


「……はあっ」
 

水中から陸に上がったように、激しく呼吸するあたし。
 

アキを見てみると、いつものクールな表情もさすがに少し崩れ、苦しそうな顔をしていた。


「あいつら……いったい何なの?」

「知るか。俺に聞くな」
 

フンっと笑ったアキの唇に、うっすらにじむ血。

ポケットティッシュを出して拭いてあげようとすると、アキは首を振った。


「俺よりあんたの方がやばいと思うけど」


「……え?」