『駒田愛を贄に選ぶ。』
騒がしかった教室に放送が流れた。
私は思わず、食べていたお握りを床に落としてしまった____
……
私は平凡な田舎の中学3年生。受験生だ。
田舎なもんであって、学校のまわりには木、あと田んぼしかない。
このお年頃、やっぱり都会に憧れる年頃。
「ねぇねぇゆぅなっ!都会ってイケメンいっぱい居るのかなぁ~っ?!」
「えぇ~…まぁ居るんじゃない?」
ゆぅなとは私の親友、優那の事である。
親しみを込めて、と言う意味でゆぅなと呼んでいる。
「んもぉ塩だなぁ~、ひぃちゃんは?どう思う~?」
「えぇ?そりゃいっぱい居るでしょ!あ~あ、イケメンが転校してきたりしないかなぁ」
こんなド田舎に来るイケメンは居ないとは思うが。ひぃちゃんは、一葉と書いてひとはと読む。ゆぅな同様、親しみを込めてひぃちゃんと呼ぶ事にした。
授業が終わり、今は休み時間。
そろそろお昼の時間が来る為、皆誰と食べるかざわざわしている。
皆イツメンで食べるのだろう、それぞれ机をくっつけてグループを作り初めている。
「私達も食べ始めよっか!」
私達も机を囲む様につけ、それぞれお弁当を持ってきて席に着いた。
……
「……でさぁ、」
「……でもぉ~、」
こうして話しながら食べるのがとても楽しい。
話の話題は私達が最近好きなアニメや声優さんについて。そう。私達はいわゆるオタク、なのだ。
「……あ、てかさぁ、最近あの噂の期限切れるんでしょ?」
「あ~、そう言えばお母さんはとかが話してたわ。『一体誰が選ばれてしまうのかしら』ってさ。守り神がイケメンだったら立候補するけどねぇ」
守り神。
{1000年に一度、この町の守り神は目を覚ますだろう。覚ました時には贄として女児を差し出さねばならぬ。差し出さぬならばその町は崩壊するであろう。}
その話は昔から受け継がれていたと言う。
選ばれたらどうする~っ?なんてはしゃいでいると、放送が入り教室の話し声は静かになった。
………
…私は耳を疑った。
だって、私が選ばれるなんて思っていなかったから。
「……は、マジで…、?」
ゆぅなが小声で呟く。
『駒田愛は、明後日の儀式に備えておくように。以上。』
「……う、嘘でしょ?…愛が贄になったらもう…」
会えない。
贄に選ばれたと言う事は、恐らくもう現実には帰ってこれない。
先程まで騒いでいたクラスメイトも、別の学年も先生も誰も喋らない。
それが妙に恐ろしくて、私は教室の雰囲気を変える為に笑って答えた。
「えっ、私選ばれちゃった系?…タハーっ、最高じゃん!選ばれたから受験とかしなくて良いじゃん?!ラッキー!フゥー!」
変な躍りをしながら静寂に包まれた教室の中をくるくる回って見せた。
最初はひきつっていた顔をしていたクラスメイトも、同情してくれているのか、又は自分では無くて良かったと安堵しているのかは理解出来ないが、最初よりも怖がってはいない。
…そっかぁ。明後日から私はここに居ないんだね。
それから放課後になってもゆぅなとひぃちゃんは笑ってくれなかった。
そりゃそうだ。
今まで仲良くしていた親友が明後日生け贄になるんだ。平気な訳が無いだろう。
「ゆぅな、ひぃちゃん。一緒に帰ろう!」
恐らく、このセリフを言うのも…言えるのも、明日まで。