♪~…♪~…

暗い部屋を窓から差す眩しい日差しが明るくする。

…この目覚ましの音楽も、最近聞き始めた好きなアーティストの曲にしてみたが…いまいち目覚めが良い訳ではない。

「……学校行こう…」

そう。今日は学校だ。
起きて、歯磨きして顔洗って朝ごはん食べて……

あ、そうだった。今日からお母さんは居ないんだ。

お母さんは私が幼い頃から仕事が優先の人だった。
そんなお母さんに嫌気が差したのか、お父さんとお母さんは離婚した。お父さんの顔は知らない。

だから昨日、『明日から出張先に行ってくるから2ヵ月帰ってこない』と言ってきた。

……寂しい、とは思わない。

空っぽの冷蔵庫を眺めていろんな事を考えていると、だいぶ時間が経っていた様だ。

「やば、遅刻する!」

取り敢えず牛乳だけ一口飲み、玄関を開けて学校へと向かった。

……

それにしてもお腹が減る。

急ごうとしたが、家を出た時点でもうアウト。今から急ぐのも面倒臭いので遅刻、という事で良いだろう。

なんて考えながらゆっくり歩いていた時だった。

「おいっ!愛!お前も遅刻か?!」

肩を叩かれて驚愕し、ゆっくり振り向くとそこには同じクラスメイトである小林 航が。
引き締まった筋肉質の体。にっ、と無邪気な笑顔を見せ、こう明るい彼はクラスでも人気者だ。

……ぶっちゃけ、好きなタイプでは無い。

こう明るい人とは関わりたく無いし、どうせ私みたいな大人しいヤツはまわりからも疎まれる。

「えっ……あ…、う、うん……。」

キョドってしまった。
ほら、こんな所が駄目なんだ私は。

「そりゃ遅刻するよなぁ、だって昨日の球技大会めっちゃ盛り上がったもんな!」

はっは、と笑いながら話す彼を見ていると何故こんなに元気でいれるのか不思議に思ってくる。

ちなみに私は昨日の球技大会には出ていない。
自分が失敗してまわりのクラスメイトの印象が悪くなるのが嫌で、どうしても出たくなくて仮病を使った。

「あっ、てか愛ちゃんは昨日休んでたか……ごめん!もう体調は大丈夫なのか?」

ぱちん、と両手を合わせて謝ると、今度は私の体調の心配をしてきた。
…仮病とか言えないしね。

「…あ、…うん。もう平気…。」

また素っ気なく返してしまった。
彼も面倒臭く思っているだろう、私と朝から会うなんて可哀想だな、と思いながら学校まで歩いた。

……

「……ここは2番の公式を使って…」

「さぁーせんっ!遅れましたぁー!」

大きな音を立てながら教室に入ったせいで、授業を受けていた生徒達から一瞬で私達に視線が集まる。

…はっ、恥ずかしい……っ!!

「……愛も遅刻か。愛はまぁ良い、座れ。航は放課後残れよ。」

先生は私の家の事情も知ってくれているお陰で反省文は書かなくて済んだ。

「えぇ?!何で俺だけ?!」

大袈裟にリアクションを取る彼に向かって教室が笑いに包まれる。

…こういう空気、あんまり好きじゃないんだよな…。

「うるさい。はい、授業戻るぞ~。」

私は自分の席に着き、教科書を開いて黒板の文を写した。

……

ガヤガヤ…

授業が終わるとすぐに皆話し出す。
隣の女子はグループを作って大声で大人気俳優の話をしている。

あんまりテレビ見ないんだよね。

私はテレビよりも本をよく読む。多分この学年では一番本を読んでいると言っても可笑しくないと思う。

放課後はほとんど図書館にいる。次々と新しい小説が入ってくるから、話が気になって読む。また新しい小説が入れば読む。また新しい小説が入れば……となると、図書館は静かだし本も読めるし最高なのだ。

今日の放課後も図書館に行こう。
また新しい小説あるかな。

次はどんな物語が読めるのかと思うと胸が踊った。
そう考えているとすぐに時は過ぎ、放課後になる。

女子数人はまだ駄弁っていて…男子は大体帰っている。

私も自分の荷物をまとめ、帰ろうとした時だ。

「…あっ、愛ちゃーん!今から帰んの?」

友達と話しているのでこちらに話し掛ける事は無いと思っていた…が、友達との会話をわざわざ切り上げて話し掛けてきた。

何で?!話し掛けないで?!

「俺も一緒に帰って良い?」

とか聞きながらちゃっかり隣を歩いている。話は最近のクラスの話、部活動、最近できたカフェの話など、私には関係ない話ばっかりだ。

『うん』とか『へぇ』と相槌をうちながら彼の話を聞き流し、適当に何処かで抜け出そう。

今の私の脳内は新しい小説の事しか無かった。

……