「亮ちゃんは自分で取ってください。
もう、娘の味方ばっかりして」

半分、嫉妬しているかのような態度で自分の分のスープを飲む母親。


「なっ、その八つ当たりは良くないぞ!」


「八つ当たりじゃないわよ。私にもその優しさ分けてほしいな〜と思って」


ああ、始まった。

我が家のルーティーンの如く、夫婦の痴話喧嘩。


父も負けじと言い返す。

「いつも優しくしてるだろ。ナナの見たい番組はちゃんと録画してるし」


ナナこと、菜々子。

父親は亮太郎をとって亮ちゃんだ。


大学からの同級生であった両親は、当時の呼び名のまま現在に至っている。


そういうところも羨ましいな、と日々思う。


「そんなの当たり前よ。ほら、例えば今朝だって、もう少しマシな起こし方あったでしょう?」

「声掛けても起きないだろ、ナナは。だから布団引っ剥がすしかなかったんだよ」


どうやら、今朝の数十秒の間にも一悶着あったようだ。

止めてもキリがないことは、この両親から生まれて17年、身体に染み付いている。


何も触らないのが吉。


パクパクとの目の前の皿を平らげ、シンクに皿をつける。



ちょうどそのとき、同じようにこの夫婦の血を分かつ人物が階段から降りてくる音がした。


ガチャンっと勢いよくリビングのドアを開けて、その人物が立ち止まる。

灰色のスウェットジャージに、寝癖が鳥の巣のように形づけられていた。


180センチもある高い身長の彼は、少し母の面影を残したベビーフェイス。

信じたくないが、3個下の私の弟だ。


「、、何やってんの、朝から」


声変わりを終えて、少し低くなった声プラス、朝の寝起きによるドスの効いた声が響く。


「毎日恒例のアレ」と、私も呆れたように返す。


渦中の二人は、息子が起きてきたことも気づかず、言い合いを続けている。