少し時間をずらして教室へ向かうと、すでに松本くんは自分の席に座っていた。


いつものようになにもせず、ジッとうつむいている。


教室の中からは松本くんへの影口が聞こえてくる。


それでも、なにも言い返そうとはしない。


あたしが意識して松本くんへ視線を向けていても、松本くんがこちらを向くことはなかった。


でも、松本くんはあたしへ向けて怒ってくれた。


ちゃんと感情を見せてくれたのだ。


松本くんの中にだって存在しているそれを、もっと表に出してほしいと思い始めていた。


「で、デートはどうだったの?」


ホームルームが終わってすぐ、泉が声をかけてきた。


「え?」


あたしは驚いて振り返る。


「勇人とのデートだよ」


そう言われてあたしは遊園地での出来事を思い出した。


勇人と2人でいろいろなアトラクションに乗って、楽しんできた日のこと。


「デートって……まさか、泉の風邪は仮病だったんじゃないでしょうね!?」


あたしはハッと気がついて声を大きくした。