「てかさ~人質ちゃん。
 喋れるようになったんなら、早く彼氏君に電話してくれる?
 俺待つの大っ嫌いなの」


「……やっ」


スマホがあるスカートのポケットに男の手が伸びてくる。

思わず拘束も何もされていない、自由な身をよじらせて、精一杯の抵抗をしてみせる。


意外にもあっさりと男の伸びてきた手が戻っていく。


だけど彼の冷たい人形の様な目は、ずっと私に向けられたままだ。



「別にいいんだよー?俺はこのまま君とふたりきりでも。
 なんならここで俺と暮らしてみる?
 何もないけど俺がいるから寂しくないね~。」


「……」


「ははん、すっごく嫌そうな顔。
 さすがの俺も傷つくんですけど」


たれ目な彼が、ニッコリと笑ったとき。

ポツリと小さな右目の泣きぼくろが、少しだけ上にあがって見えた。


はじめて男を見たとき、息をしていない作り物の人形の様に見えた。


グレーアッシュ色のサラサラとした髪が、短くひとつに束ねられていて、ギリギリポニーテールとして出来上がっている。


黒い瞳は、一切光を受け付けず
なのにふざけた口調のせいか、その冷たさは紛い物のように見えた……でも。

やっぱりその口調からも何を考えているのかまったく分からなくて、人を不安にさせる。


優しいのか、優しくないのか。

人としての人情はあるのか、ないのか。

それが分からなくて……余計にギリギリのラインを攻められているような気がして気味が悪い。


通った鼻筋に、大きくも小さくもない形のいい唇の色は赤色。


肌は白く、怪我なんかしたこともなさそうほど綺麗。


綺麗だからこそ怖い。


同じ人間に……見えないから。