「その顔、ズルすぎ。……こういう状況じゃなきゃ、今頃俺、君に手を出してたかもね。」


「……だめ」


子供みたいに言う私に、桜木はフッと笑う。


「分かってるよ。君が落ち着くまで一緒にいてあげる」


「……さくらぎ」


「その役目だけは、ぜんぶ。俺にちょーだいね。」



言いながら桜木は、私の手を引く。

床に腰を下ろし、ベッドに凭れかかる彼は
足の間に私を座らせ、囲うように抱きついては、安心させるように体温を注ぐ。



「……大丈夫、怖くない。
 怖かったら俺が何度でも助けてあげる」


甘美にも似たその言葉に、ひどく胸を打つ。



「……なんだか、桜木じゃないみたい」


「ハハッ、天音ちゃんにはどうやら俺が悪い男に見えてるみたいだねー」


「……別に、そうでもないよ」


「……なんで?」


「だって、何だかんだ助けてくれるじゃん。桜木」