「天音ちゃん……おいで」


上手く話せない冷静ではない今の私に、桜木は何も聞かず、手を優しく引っ張りバイクの後ろに乗せてくれた。


バイクが走っている時、塞ぎたい視界を彼の背中に顔を押し当て隠した。


それから数分後、連れてこられた場所は桜木の部屋。


私が靴を脱ぐのを見て、彼はもう待てないと後ろから抱き締めてくる。


直球な温もりに、潤んでいた瞳から容赦なく涙が溢れ落ちる。



「なに、なんで泣いてるの。
 あの男に酷いことでもされた?」


彼の言葉に顔を横に振ると、桜木の眉間から縦皺が消えた。


……桜木が心配してくれている。


その優しさが、私の落ち着かない胸をあやしているみたいで……

次第に落ち着きを取り戻していく。


やっと、絞まっていた喉が緩まった。