「おい親父……っ、さっさとあの女追えよ!!」
れみ子の怒鳴り声が聞こえる。
私に反抗されたのは初めてだから、あんなに怒ってるんだ。
前までは彼女に従ってた。
どんなに嫌な思いをしても、我慢できたけど。
もう、無理。
一度いじめから抜け出すと、もういじめられたくないと体が叫ぶ。
男は「待て……!」と無我夢中で私を追いかけてくる。
私を逃せば、この男の金が無かったことになる焦りか、それとも女子高生に幻想を抱いていた男が、れみ子の鬼の形相に怯んで夢が壊れた失望感からくるものなのか。
どちらにしろ、相手は私を追いかけてくるのをやめない。
とにかく前だけを見ていた。
蹴られる地面さえあれば道なんて適当に走って、でも後ろを見ることができなくて。
「はぁ……はぁ……っ!」
嫌だ、怖い、捕まりたくない、触られたくない。
誰か……たすけ、て。
「桜木……っ」